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海外SF&ファンタジー 感想録

 「SF」というものは、大学生になるまであまり意識して読んでいなかったように思う。アシモフ、ブラッドベリにバロウズの<火星>シリーズ、E.E.スミスの<レンズマン>シリーズ、ハーバートの<デューン>シリーズくらいか。1983年からアシモフの読み残しやフレドリック・ブラウン、ゼラズニイの<アンバー>シリーズ、<ローダン>シリーズなどに手を出し、1984年夏頃からまとめていろいろ読んだ。一応古典からサイバーパンクくらいまでおさえてそれぞれにおもしろかったが、なんとなくSF小説はどこか今ひとつ個人的にのめりこめる作品が少ない気がする。SF漫画にはすごく好みの作品もあるのだが、ファンタジーに比べて「美しさ」が足りないからか。それでもSFは好きなジャンルなのだが。科学的な描写はわからないものも多いが、それなりに説得力を持って読ませてくれればOK。
 ファンタジーは児童文学の流れから来て、1979年にハヤカワ文庫FTが創刊されて以来、別世界ものが日本でもよく読めるようになって嬉しい。<ハリー・ポッター>以来児童ファンタジーもいろいろ出るようになったが、なかなかフォローしきれない。そのへんは、まあ、ぼちぼちと。「幻想文学」にも挑戦したいと思わないではないのだが、「怪奇」「ホラー」は苦手なこともあってタニス・リー止まり。
 筆者が読んだ作家・作品について、感想を交えて簡単に紹介するが、児童文学の方と異なり大体年代順に並べたいと思う。いずれ五十音順索引をつける予定。「裏」ページは設けないので、ネタバレもあり、未読の方はご注意を。誤りなどあれば御教示いただければ幸いである。(2021年12月現在工事中)

2010年8月20日制作開始 鈴木朝子

凡  例

1.収録内容
 SFまたはファンタジーを執筆した海外の作家名を見出しにして、原則一作家一作品、筆者が読んだ作品について、感想を中心にして簡単に紹介した。その他の作品については適宜。児童文学については「児童文学の部屋」を参照されたい(一部人物の重複あり)。
2.配列
 おおむね掲載作品の原出版年順。作家の生没年、複数の作品の原出版年によるものもある。
3.見出し人名と生没年・国籍
 見出し人名は日本で一般的によく用いられる形で示した。
 姓,名の形にしてまずカタカナ表記で示し、次に原綴を出した。姓・名に分けられないものはそのままの形で記載した。図書によってカタカナ表記が異なるものがある場合は後ろに( )で補記したものもある。
 生没年は、西暦で見出し人名の後ろに( )に入れて示した。
 国籍は、生没年の後ろに示した。 複数の国籍がある人についてはその旨を適宜記載。
4.作品
 書名、巻次、出版年、出版社または叢書名、訳者、原書名、原出版年を記載し、読んだ年と自分の中での評価(A、B、C、D、の四段階)を入れてみた。東京創元社の文庫のSFは現在は「創元SF文庫」だが、以前は「創元推理文庫」の「SF部門」だった。自分が読んだ時期によって、のちSF文庫になったものも修正はしていない。早川書房のいわゆる「銀背」、新書判のハヤカワ・SF・シリーズは、初期は「ハヤカワ・ファンタジイ」で「金背」のものもあったが、ここでは「ハヤカワSFシリーズ」で統一した。
 一つの作品で複数の翻訳・版がある場合は、原則として筆者が読んだ版を示した。
 はSF、はファンタジー・幻想小説。
5.感想・紹介文
 本文中の単行本や短編集などの書名は『 』で、短編の作品名や雑誌名などは「 」で、シリーズ名は< >で示した。作品名は日本で翻訳のあるものはその翻訳名(数多くの翻訳名があるものは適宜適当と思われるもの)を用いた。
6.主要参考文献

1899年まで

シェリー,メアリー Shelley, Mary (1797~1851*英)
『フランケンシュタイン』(1984)創元推理文庫 森下弓子訳 : '85/C
   Frankenstein ; or the Modern Prometheus(1818,1831)
 教養古典。人造人間ネタなのでSFとして。というか、「ゴシック・ロマン」だからどちらかというと「怪奇・幻想小説」の方か。
 よく誤解されているが、「フランケンシュタイン」は作中の人造人間の名ではなく、その創造者の名前である。人造人間自体には名はなく「フランケンシュタインの怪物」と呼ばれている。和田慎二の漫画「わが友フランケンシュタイン」では「サイラス」と名づけられており、外見は醜くても心優しい男として描かれていたが、原作ではどうだったか…忘れてしまったなあ。「醜い人造人間」のこととして「フランケンシュタイン(の怪物)」はほとんど一般名詞化しているが、原典をきちんと読んでいる人は今ではあまりいないかも。
 作者は無政府主義者のウィリアム・ゴドウィンと女権論者のメアリ・ウルストンクラフトの娘で、詩人パーシー・シェリーの妻。家族はすべて著名人。
(2010.7.25記)
ヴェルヌ(ベルヌ),ジュール Verne, Jules (1828~1905*仏)
『海底二万リーグ』(1962)ハヤカワSFシリーズ 村上啓夫訳 : '98/C
   Vingt Mille Lieues sous les Mers(1869)
 SF古典の一つなので読んでみた。訳題は『海底二万里』『海底二万海里』『海底二万マイル』など多数あり。「冒険小説作家」という感じだが、やはり「SFの父」の一人だからこちらで。
 「ネモ船長」「ノーチラス号」といった固有名詞が、普通名詞のように使われるほど著名な作品。世界初となるアメリカの原子力潜水艦は「ノーチラス号」と名づけられた。当初の船の沈没事件の真相、船長の行動の理由はともかく、創造上の光景であるはずの海底の状景が生き生きと描かれているのが楽しい。古さは免れず、技術面や自然描写的には実際はあたっていない点も多いかもしれないが、今読んでもそれなりに魅力の感じられる作品。初期の推理小説によくあるように、主人公というか、一人称の語り手がいるのだが(あと若い読者対応のためか助手の若者も)、そんな人物がいたことは読み終わって時間が経つと忘れてしまうかも。『神秘の島』(未読)にもネモ船長が出てくるが、物語の中の年代などに矛盾があるので直接の続編とは言えないとのこと。
 子どもの頃に読んだ『十五少年漂流記(二年間の休暇)』はいろいろ工夫するのがおもしろく、大変好きな作品だった。

<その他の作品>
 『地底旅行』Voyage au Centre de la Terre(1864)
 『月世界旅行』
  「地球から月へ」De la Terre à la Lune(1865)
  「月世界へ行く」Autour de la Lune(1870)
 『グラント船長の子供たち』Les Enfants du Capitaine Grant(1868)
 『八十日間世界一周』Le Tour du Monde en Quatre-Vingts Jours(1873)
 『神秘の島/謎の神秘島』L'Île Mystérieuse(1875)
 『十五少年漂流記/二年間の休暇』Deux Ans de Vacances(1888) : '76以前/A
 他多数

→作家やその他の作品については「私的 児童文学作家事典〔海外編〕」「ヴェルヌ(ベルヌ),ジュール」も参照のこと。

(2010.7.26記)
ハガード,ヘンリー・ライダー Haggard, Henry Rider (1856~1925*英)
『ソロモン王の洞窟』(1972)創元推理文庫 大久保康雄訳 : '87/C
   King Solomon's Mines(1885)
 秘境冒険もの。幻想味は薄かったように思うが、入っている叢書が通称「帆船マーク」で、かつての〔怪奇と冒険部門〕、現在の「ホラー&ファンタジィ」なので、こちらの方で。ほとんど内容を忘れてしまったのだが、この手の秘境冒険ものはノリはほとんどファンタジーだし。
 主人公アラン・クォーターメンは続編『二人の女王』(未読)に再登場するほか、アメコミを原作とした映画「リーグ・オブ・レジェンド」にも主人公として出てくる(演者はショーン・コネリー)。日本では一般的にはあまり著名ではないが、欧米では今でも人気が高いのか?
(2010.7.31記)
モリス,ウィリアム Morris, William (1834~1896*英)
『世界のかなたの森』(1979)晶文社(文学のおくりもの14) 小野二郎訳 : '89/C
   The Wood beyond the World(1894)
 読んだんだけど、確かに読んだと記録してあるのだけれど、全くと言っていいくらい覚えていない。若者が不思議な旅をする短めな物語のようなのだが…。
 現在は装丁の美しい<ウィリアム・モリス・コレクション>の一冊となっている。
 モリスは詩人でもあり、テニスンの死後桂冠詩人に推されたが断ったとか。社会主義の活動などもしていたから、王家から年金をもらって慶弔の詩や戦意高揚のための詩を詠んだりするのが嫌だったんだろうか? 図案化された植物の模様の壁紙や家具など、デザインの方面でも著名。
(2010.8.25記)
ウェルズ,ハーバート・ジョージ Wells, Herbert George (1866~1946*英)
『宇宙戦争』(1969)創元推理文庫 井上勇訳 : '98/B
   The War of the Worlds(1898)
 SFの古典。有名な作品だが、オチを全く知らずに読んだ。SFのテーマの一つ「侵略もの」の元祖的作品。馬車で逃げるなど時代がかったところがあったり、途中で登場人物が哲学談義めいたものを長々とするなど古さはあるものの、結構おもしろく読めた。
 原題は「世界戦争」、「世界」は複数なので意訳すると「二つの世界の間の戦争」か。ただ圧倒的に火星からの侵略者側が強いので、「戦争」そのものは勝負にならないのだが。結末はあっけないようだが、あの戦力差ではああでもしないと人類に希望はなかったかも。
 パニックを引き起こしたというラジオドラマのほか、何度か映画化・テレビ化もされ、パスティーシュ小説も多い。タコ型火星人・三本足の乗り物など、ビジュアル的にも後世に大きな影響を与えた。
 ウェルズには小説以外にも歴史や社会主義など多岐に渡る著作があるが、ヴェルヌとともに「SFの父」と呼ばれ、『宇宙戦争』のほかにも『タイム・マシン』『透明人間』『モロー博士の島』などの「SFの古典」とされる作品を執筆している。

<その他の作品>
 『タイム・マシン』The Time Machine(1895)
 『モロー博士の島』The Island of Dr. Moreau(1896)
 『透明人間』The Invisible Man(1897)
 他多数

(2010.8.25記)

1900年代

ダンセイニ,ロード Dunsany, Lord (1878~1957*アイルランド)
『ペガーナの神々』(1979)ハヤカワ文庫FT 荒俣宏訳 : '84/C
   The Gods of Pegāna(1905)
   Times & the Gods(1906)
 独特なムードを持った、雄大な創作神話。断片的な言い伝えのような短いエピソードの連なりからなる。具体的な内容はほとんど忘れてしまったが、〈宿命(フェイト)〉と〈偶然(チャンス)〉が賽をふったがどちらが勝ったかわからないとか、太鼓をたたく神とか、眠っている神とか…。
 通称「ダンセイニ卿」の本名はエドワード・ジョン・モアトン・ドラックス・プランケット、18代ダンセイニ男爵(Edward John Moreton Drax Plunkett, 18th Baron of Dunsany)。日本を含め、多くの作家たちに影響を与えた。
(2010.8.29記)

1910年代

バローズ(バロウズ),エドガー・ライス Burroughs, Edgar Rice (1875~1950*米)
『火星のプリンセス』(1965)創元推理文庫 小西宏訳 : '80以前/B
   A Princess of Mars(1917)
 スペースオペラ、というよりほとんど異世界ファンタジーなノリの<火星シリーズ>第1巻。シリーズ初刊としてこれを。序盤の三作は事実上三部作なので、まとめるべきかもしれないが。主人公ジョン・カーターは地球人だが、いろいろ謎なことも多い人物だ。そのへんやなぜ火星なのか、というようなことはとりあえず置いておき、主人公たちの活躍を楽しむ物語。
 はじめは地球人とかけ離れている緑色人を強調していたのに、その後出てくる赤色人・白色人・黒色人・黄色人は地球人と大差なく、ちょっと拍子抜けなところもあるが、波瀾万丈な冒険物語としておもしろく読める。
 シリーズには第1巻からの主人公ジョン・カーター以外の話もあるが、私の好きな話は第7巻の『火星の秘密兵器』。お姫様でない活動的なヒロイン、タヴィアが魅力的だ。
 日本版は武部本一郎の美麗なデジャー・ソリスなどの表紙絵・挿絵でも著名。最近は3冊ずつ合本になった版が出ている。
 バローズにはほかに<金星シリーズ><ペルシダー・シリーズ><ターザン・シリーズ>など作品多数。<火星シリーズ>のあとには<木星シリーズ>を書く構想もあったようだが実現せず。

<火星シリーズ> 創元推理文庫
 『火星の女神イサス』(1965)小西宏訳 The Gods of Mars(1918) : '80以前/B
 『火星の大元帥カーター』(1966)小西宏訳 The Warlord of Mars(1919) : '80以前/B
 『火星の幻兵団』(1966)小西宏訳 Thuvia, Maid of Mars(1920) : '80以前/B
 『火星のチェス人間』(1966)小西宏訳 The Chessmen of Mars(1922) : '80以前/B
 『火星の交換頭脳』(1966)小西宏訳 The Master Mind of Mars(1928) : '80以前/B
 『火星の秘密兵器』(1967)厚木淳訳 A Fighting Man of Mars(1931) : '80以前/B
 『火星の透明人間』(1967)厚木淳訳 Swords of Mars(1936) : '80以前/B
 『火星の合成人間』(1968)厚木淳訳 Synthetic Men of Mars(1940) : '80以前/B
 『火星の古代帝国』(1968)厚木淳訳 Llana of Gathol(1948) : '80以前/B
 『火星の巨人ジョーグ』(1968)厚木淳訳 : '80以前/B
  「火星の巨人ジョーグ」John Carter and the Giant of Mars(1941)
  「木星の骸骨人間」Skelton Men of Jupiter(1943)

(2010.9.11記)

1920年代

リンゼイ,デイヴィッド Lindsay, David (1878~1945*英)
『アルクトゥールスへの旅』(1980)サンリオSF文庫 中村保男,中村正明訳 : '89/D
   A Voyage to Arcturus(1920)
 恒星アルクトゥールスの惑星が舞台という設定だが、SFというより幻想小説だったと思う。評判の高いものなので読んでみたのだが、なんだかよくわからずおもしろくなかったような。内容はすっかり忘れてしまったのだが、Amazonの感想によると「登場人物、地名、行動や思考などが全て意味のある隠喩になっている」とのことなのだが、少しでもわかったものがあったかどうか…。
 奇しくも同じ年に国書刊行会から荒俣宏訳でも出ている。読み比べてみると、どちらが読みやすいとかあったのだろうか。
(2010.10.18記)
エディスン,エリック・リュッカー Eddison, Eric Rücker (1882~1945*英)
『ウロボロス』(1986)創元推理文庫 山崎淳訳 : '89/B
   The Worm Ouroboros(1922)
 ファンタジーの古典的作品だが、密度が濃く波乱万丈で思いのほかおもしろく読めた。書かれた年代は古いのだが、その古色蒼然とした感じもまた味の一つになっている。最初に語り手のような人物が出て来るのだが、導入としてなじみやすくするためらしく、その後はもう出て来ない。また舞台が「水星」であると言われるのだが、天文学的な意味の「水星」とは思えないので、SFというより単なる別世界の英雄物語として読んでいいものである。終わり方がこの物語のタイトルを表しているのだが、読者としてはちょっとうーんこれでいいのかなあという感じだった。まあこういう終わり方もありか。
 月刊ペン社のファンタジー叢書だった妖精文庫の一冊として、『邪龍ウロボロス』の題で上巻のみ1979年に出た後、妖精文庫がなくなってしまったため中絶していたものが完結。形が変わったけれど読めて良かった。
(2010.11.1記)
メリット,エイブラム Merritt, Abraham (1884~1943*米)
『イシュタルの船』(1982)ハヤカワ文庫FT 荒俣宏訳 : '83/B
   The Ship of Ishtar(1924)
 バビロニアの神話と北欧のサガを合わせたようなヒロイック・ファンタジー。地の文にも「!」が多用されている大仰な感じの文体だが、それも似つかわしく思える現実と神話的世界を行き来する華麗な冒険物語。文字通り色彩的にも多彩で、銀-橙-黒-緋-青-桃-金と続く終盤の七層の館の描写が個人的にとてもツボだった。重要な神である叡智の神ナブの色が私の好きな青であることも好み。主人公の恋愛の行方やストーリーよりも、色鮮やかな館の描写の方が自分としては印象深い。
 名前の綴りを素直に読むと「エイブラハム」で、そう書いてある本もあるが、自分の読んだ本の表記に合わせた。たくさんはないが、ヴァージル・フィンレイの挿絵も美しい。
(2010.11.3記)
グリーン,アレクサンドル Грин,Александр (1880~1932*露)
『黄金の鎖』(1980)ハヤカワ文庫FT 深見弾訳 : '84/D
   Золотая Цепь(1925)
 幻想的な冒険物語だったと思うが、いわゆる「ファンタジー」ではなかったような。謎の館とか海賊とかいろいろ出てくるのだが、どういう話だったか実はほとんど忘れてしまった…。FT文庫の初期作品をいろいろまとめ読みしたときに読んだもの。
 革命後のソビエトでは不遇で、一時は「消された作家」だったらしい。
(2010.11.3記)
マーリーズ,ホープ Mirrlees, Hope (1887~1978*英)
『霧の都』(1984)ハヤカワ文庫FT 船木裕訳 : '86/C
   Lud-in-the-Mist(1926)
 解説にハイ・ファンタジーとあるが、舞台となる国自体は「妖精の国」と接しているとはいえ現実の普通の国っぽいので、エヴリデイ・マジック的な感じもする。割と地味な話だったと思うので、「古き良き」といったようなイメージがあるのだが記憶にはあまり残っていない…。
 「埋もれた名作」だったらしく作者についてもほとんどわからないようなのだが、この古風な味わいが好き、という人もいるようだ。
(2010.11.3記)

1930年代

ステープルドン,オラフ Stapledon, Olaf (1886~1950*英)
『オッド・ジョン』(1977)ハヤカワ文庫SF 矢野徹訳 : '84/D
   Odd John(1934)
 「超人」テーマの古典SF。時期尚早として無用な争いを避けるために自分たちを排除する、という悲劇的な終わり方以外はなかったのかと残念だった記憶がある。人間が異質なものを嫌悪し排除しようとする非寛容さを、むしろ憐れんでいるような感じ。「旧人類」としてはそういう上から目線も神経を逆なでするんだけどね。
 ステープルドンは『最後にして最初の人類』(1930)という壮大な未来史テーマの作品で認められたというが、2004年になってようやく完訳が出た。古典SFに対する再評価を行うコードウェイナー・スミス再発見賞を2001年に受賞するなど、近年再評価がされているようだ。
(2010.11.7記)
ムーア,C.L. Moore, Catherine Lucile (1911~1987*米)
『大宇宙の魔女』(1971)ハヤカワ文庫SF 仁賀克雄訳 : '93/D
   Shambleau and other stories(1934)
 宇宙で拾った妖艶な美女が実は…という魔女的な異星生物が出てくる連作<ノースウェスト・スミス>シリーズの第1集。今読むとそれほどエロティックでもないんだろうけど。スペースオペラの古典となっているようだが、あんまりいい印象が残っていない。
 ハインラインの「地球の緑の丘」は、このシリーズの一篇の中に出てくる歌の題名から取られているとか。歌詞はもちろんハインラインのものとは違うけど。
 当時のSF・ファンタジー界は作家が女性だと男性読者に受けないため、性別を伏せたイニシャル表記だったというのをどこかで読んだような。本名は「キャサリン・ルシール」。夫となったヘンリー・カットナーとの合作も多い。日本版は松本零士の挿画が印象的だったか。シリーズを一冊にまとめた版も出ている。

<ノースウェスト・スミス> ハヤカワ文庫SF 仁賀克雄訳
 『異次元の女王』(1972)Julhi and other stories(1935)
 『暗黒界の妖精』(1973)Nymph of Darkness and other stories(1937)

(2010.11.7記)
ネイサン,ロバート Nathan, Robert (1894~1985*米)
『ジェニーの肖像』(1975)ハヤカワ文庫NV 井上一夫訳 : '85/C
   Portrait of Jennie(1939)
 「時間」テーマのタイム・トラベルSF、というかタイム・ファンタジー的な話。この手の話の古典的作品で、「センチメンタル~」「ロマンティック~」と言いたい作品。ファンタジーではあるが、せつない恋愛小説として一般受けする話だと思う。自分の中であまり評価が高くないのは雰囲気があまりにウェットな感じがするせいか?
 1947年というかなり早い時期に映画化され、私でも知っている俳優が出演している。映画もロマンス名作として有名らしい。凝った映像表現を使って、アカデミー賞の特殊効果賞(現在の視覚効果賞)を受賞している。

<その他の作品>
 『夢の国をゆく帆船』(1974)ハヤカワ文庫NV 矢野徹訳 : '85/C
   The Enchanted Voyage(1936)

(2011.1.16記)

1940年代

ディ・キャンプ,リヨン・スプレイグ de Camp, Lyon Sprague (1907~2000*米)
プラット,マレー・フレッチャー Pratt, Murray Fletcher (1897~1956*米)
『神々の角笛』(1981)ハヤカワ文庫FT 関口幸男訳 : '84/B
   The Roaring Trumpet(1940)
 現実世界から異世界へ行って冒険するタイプのユーモア・ファンタジー<ハロルド・シェイ>シリーズの第1作。北欧神話やスペンサーの『妖精女王』の世界などの「異世界」へ行くのに「論理方程式」を使うところにちょっとSFっぽい仕掛けがあるが、実態はまあファンタジーだろう。主人公は「ダメ男」とか書いてあって、楽しいドタバタ・コメディーだったと思う。
 作者の一人のディ・キャンプはのちにヒロイック・ファンタジー<コナン>シリーズも手がけるようになる人。日本版は天野嘉孝の表紙が美しい。

<ハロルド・シェイ> ハヤカワ文庫FT 関口幸男訳
 『妖精郷の騎士』(1982) The Mathematics of Magic(1940) : '84/B
 『鋼鉄城の勇士』(1983) The Castle of Iron(1941) : '84/B
 『英雄たちの帰還』(1983) : '84/B
  「蛇の壁」Wall of Serpents(1953)
  「青くさい魔法使い」The Green Magician(1953)
<その他の作品>
 『妖精の王国』(1980)ハヤカワ文庫FT 浅羽莢子訳
   Land of Unreason(1942)

(2011.4.30記)
ヴァン・ヴォークト,アルフレッド・エルトン Van Vogt, Alfred Elton (1912~2000*加)
『スラン』(1977)ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳 : '81/A
   Slan(1946)
 「超人」テーマの名作SF。これは悲劇的に終わるのではなく希望的に終わるので良かった。ただSF・ファンタジー部門初の「A」評価とは自分でもびっくり(評価を決めたのはかなり前なので)。いや好きなんだけど。「超能力を持つ新人類が迫害される」というストーリーの典型的な物語。これが最初ではないのだろうけれど、この後の多くの作品に影響を与えたと思う。竹宮恵子の漫画『地球へ…』の主人公が「ジョミー」というのもこの作品から来ているのかな? SFではないけど、森脇真末味の漫画『緑茶夢(グリーンティードリーム)』に出てくるバンド名が「スラン」というのはこの話から採っている。
 『宇宙船ビーグル号の冒険』は、次々遭遇する「ベム」の脅威を、軽んじられていた「総合科学者」によって鮮やかに切り抜ける、というのが小気味よいのだが、後半は「ネクシャリズム」の万能感にちょっとご都合主義っぽい感じがしたかも。「専門化」されすぎてしまうとかえって全体的な見方ができなくなってしまって良くないよ、という「教訓」が含まれる。かつての表紙、球形の宇宙船の下にケアルの目が光る絵が印象的だった。1978年の創元推理文庫のSFと怪奇・冒険部門のみの目録についていた「全国のファンダムが選出した創元推理文庫のSFベスト10」では見事第1位になっている。
 「SF黄金時代」と言われる1940~1950年代に主に活躍した作家で、アシモフ・ハインライン・クラークと並び称されることもある。名前の発音は「ヴォート」が正しいらしいが、日本では「ヴォークト」「ヴォクト」と言い習わされる。

<その他の作品>
 『宇宙船ビーグル号の冒険』(1964)創元推理文庫 沼沢洽治訳 : '82/B
   The Voyage of the Space Beagle(1950)
 『非(ナル)Aの世界』(1966)創元推理文庫 中村保男訳
   The World of Null-A(1945)
 『非(ナル)Aの傀儡』(1966)創元推理文庫 沼沢洽治訳
   The Pawns of Null-A(1956)
 『イシャーの武器店』(1966)創元推理文庫 沼沢洽治訳
   The Weapon Shops of Isher(1951)
 『武器製造業者』(1967)創元推理文庫 沼沢洽治訳
   The Weapon Makers(1947)

(2011.5.1記)
ブラッドベリ,レイ Bradbury, Ray(Douglas) (1920~2012*米)
『火星年代記』(1976)ハヤカワ文庫NV 小笠原豊樹訳 : '81以前/A
   The Martian Chronicles(1946)
 短編連作によるオムニバス長編の叙情SF。「イラ」「月は今でも明かるいが」「優しく雨ぞ降りしきる」…独立した短編としてあちこちのアンソロジーや別の短編集に収録されているものもあるけれど、まとめて読んでいくと「年代記」として少しずつ進んでいく火星の歴史が見えてくる。せつない出会いやいろいろな争いの果てに、火星人や地球人がいなくなり、そして新しく「火星人」が生まれたところで幕を閉じる一連の物語。幻想的な雰囲気を湛えたSFの名作である。
 ブラッドベリは短編の名手だと思うが、幻想的な話を収録した『10月はたそがれの国』、SF作品集の『ウは宇宙船のウ』『スは宇宙(スペース)のス』などには、様々なタイプの作品が集められている。萩尾望都の作品集『ウは宇宙船のウ』にはそれらから選ばれた「ウは宇宙船のウ」「霧笛」「みずうみ」「集会」などが漫画化されていて、それで作品を知った人もいるだろう。タイトルが印象的なものも多く、「太陽の黄金(きん)の林檎」「よろこびの機械」など、別の短編集のタイトルになっているものもある。
 『たんぽぽのお酒』も短編連作によるオムニバス長編で、これはみずみずしい普通の青春小説…だと思っていたけど、ファンタジーだったっけ?
 風刺的な作品も多いが、長編『華氏451度』がその典型的な作品か。本が禁じられた世界、「Fireman」が「火を消す者=消防士」ではなく「火をつける者=焚書官」である世界。自ら「本」になるという抵抗を示す人々に、一冊の「本」が一人の「人」になってしまうと、同じ本を読んでも一人一人違うものであるはずの読書が少し限定されたものになってしまうのじゃないかなあと思ったものだが、とりあえずの緊急避難としては仕方ないか。
 幻想的な長編『何かが道をやってくる』はブラッドベリが好んだカーニバルもの。やや無気味な雰囲気が漂っているが、これもこの作家ならではの味の一つ。
 「SF」のレッテルがついて限定されてしまうことを嫌ったようだが、紛れもないSF・幻想文学作家である。「SFの詩人」と称される。ハヤカワ文庫はずっとブラッドベリはNVレーベルで出していたが、近頃の新版でついにSFレーベルに移動した。

<その他の作品>
 『華氏451度』(1975)ハヤカワ文庫NV 宇野利泰訳 : '84/B
   Fahrenheit 451(1953)
 『10月はたそがれの国』(1965)創元推理文庫 宇野利泰訳 : '81以前/B
   The October Country(1955)
 『ウは宇宙船のウ』(1968)創元推理文庫 大西尹明訳 : '81以前/B
   R is for Rocket(1962)
 『スは宇宙(スペース)のス』(1971)創元推理文庫 一之瀬直二訳 : '81以前/B
   S is for Space(1966)
 『何かが道をやってくる』(1964)創元推理文庫 大久保康雄訳 : '81以前/C
   Something Wicked This Way Go(1962)
 『たんぽぽのお酒』(1971)晶文社(文学のおくりもの1) 北山克彦訳 : '87/B
   Dandelion Wine(1957)
 『万華鏡』(1978)サンリオSF文庫 川本三郎訳 : '89/C
   The Vintage Bradbury(1965)

(2011.5.5記)
ボク,ハネス Bok, Hannes (1914~1964*米)
『金色の階段の彼方』(1982)ハヤカワ文庫FT 小宮卓訳 : '85/C
   Beyond the Golden Stair(1948)
 青いフラミンゴと金色の階段が出てくる幻想小説、ということしか覚えていない。というか、表紙とタイトルがそれだし。生前発表された短縮版『ブルーフラミンゴ』の完全版として死後発見され、リン・カーターらが刊行に尽力したようだ。
 作者はファンタジーのイラストレーターとして著名だったが、エイブラム・メリットに傾倒して小説も書いたらしい。ブラッドベリの友人でもあったという。
(2011.5.6記)
オーウェル,ジョージ Owell, George (1903~1950*英)
『1984年』(1972)ハヤカワ文庫NV 新庄哲男訳 : '87/D
   Nineteen Eighty-Four(1949)
 陰鬱なディストピア小説。悪夢の管理社会を描く「近未来SF」(書かれた年から見ると)だが、「SF」というより「社会風刺小説」として広く知られている。まぎれもなくこの作品はSFだと思うけど。よくできた物語だとは思うが、個人的にこういう暗い物語はあまり好みではないので評価は最低ランク。このような状況を打ち倒す話の方が好きだなあ。
 他に、動物による寓話小説の『動物農場』がある。

<その他の作品>
 『動物農場』(1972)角川文庫 高畠文夫訳
   Animal Farm(1949)

(2011.5.7記)

1950年代

スミス,エドワード・E. Smith, Edward Elmer (1890~1965*米)
『銀河パトロール隊』(1966)創元推理文庫 小西宏訳 : '80以前/B
   Galactic Patrol(1950)
 銀河を駆ける宇宙船や様々な姿の異星人などが出てくる、正統派のスペース・オペラの名作SF。「宇宙海賊ボスコーン」とか、超高速無慣性飛行を可能にした「バーゲンホルム機関」とか…。ドラム罐状の姿のリゲル人、トレゴンシーとか印象的だったなあ。前史やサイドストーリーとなる後半3作は未読だが、キニスン一家の4作はかなり以前に読んでいた。細かいところは忘れてしまったが、今となってはちょっと古いけど「古き良き」と感じられるSFらしいSFだったと思う。ただ、主人公の階級がどんどん上がっていくと思っていたら、子どもたちはもっと「上」に行っちゃってちょっと不満だったような。
 東京創元社の文庫では真鍋博の図案的な絵がカバー・口絵・挿絵に使われていたが、新訳になって生頼範義のリアルなカバー絵になった。どちらも味がある。新訳で改めて最初から未読分まで読んでみるべきか。
 E.E.スミスと言い習わされていたが、ミステリの女性作家にも同じイニシャルの人がおり、「E.E.“Doc”Smith」と言われたりもする。日本人を含め別人のスピンオフ作品やアニメもあった。

<レンズマン>シリーズ 創元推理文庫
 『グレーレンズマン』(1966) 小西宏訳 : '80以前/B
   Gray Lensman(1951)
 『第二段階レンズマン』(1966) 小西宏訳 : '80以前/B
   Second Stage Lensmen(1953)
 『レンズの子ら』(1967)庫 小西宏訳 : '80以前/B
   Children of the Lens(1954)
 『ファースト・レンズマン』(1967) 小西宏訳
   First Lensman(1950)
 『三惑星連合軍』(1968) 小西宏訳
   Triplanetary(1948)
 『渦動破壊者』(1977) 小隅黎訳
   The Vortex Blaster(1960)

(2011.5.8記)
スタージョン,シオドア Sturgeon, Theodore (1918~1985*米)
『夢みる宝石』(1979)ハヤカワ文庫SF 永井淳訳 : '84/B
   The Dreaming Jewels(1950)
 スタージョンなら「超人」テーマの名作『人間以上』をあげるべきではないかと思うが、このラインナップを作ったとき、自分としてはこの人にはこれ、と思った。正直内容はほとんど覚えていないのだが、話のイメージが好きだったのだと思う。この人の作品は何となく宝石のようなきらめきのあるイメージがあり、この作品も「幻想SF」とある。「美しい」イメージの作品を書く作家だが、ファンタジーの作家というよりSF作家として認識されている。好きな人には好まれる、玄人受けする作家だったようだ。
 『人間以上』は一人だと「普通以下」とみなされていた者たちが「集団」になると「人間以上」となる、という物語。完成度は『夢見る宝石』より高いと思うが、ストーリーがやや好きになれないタイプだったような。国際幻想文学賞を受賞している。
 「一角獣の泉」ほかの作品を収めた<異色作家短篇集>(早川書房)のスタージョンの巻のタイトルが『一角獣・多角獣』というのもきれいで格好良かったなあ。改訂版では落ちていたこの巻が、近年出直した版では復活していたのは嬉しい。
 「どんなものも、その90%はクズである」という「スタージョンの法則」(「黙示」といのが正確で、「法則」というと別のものがあるらしいが)は有名。SFが攻撃されたときに言ったもののようだが、「文学作品」限定かと思っていた。また、1970年代の「ジェイムズ・ティプトリー・Jr.を例外とすれば、最近のSF作家でこれはと思うのは、女性作家ばかりだ」というものは、実はそのティプトリーも男性ペンネームを使った女性だったというオチがつくことでSFの歴史的発言の一つになっている。

<その他の作品>
 『人間以上』(1978)ハヤカワ文庫SF 矢野徹訳 : '84/B
   More Than Human(1953)

(2011.12.15記)
アシモフ,アイザック Asimov, Isaac (1920~1992*米)
『わたしはロボット』(1976)創元推理文庫 伊藤哲訳 : '82以前/A
   I, Robot(1950)
 「ロボット工学三原則」を作り出した一連のロボットものの最初の作品集。多分最初に読んだのは、岩崎書店あたりの児童向けのSFシリーズに抜粋してあったものだったと思う。訳題は早川版での『われはロボット』の方が有名か。「堂々めぐり」「嘘つき!」「迷子の小さなロボット」の話などが記憶に残っている。「迷子の小さなロボット」ほかをもとに近年作られた映画「アイ,ロボット」はかなり味わいの違うものだったが、それはそれでなかなかおもしろかった。強面のおばさんのイメージなスーザン・カルヴィンが若い美人なのは映像的に仕方ないか。
 ロボットものの作品は他の短編集にもあるが、その中ではやはり、『聖者の行進』収録の人間になろうとしたロボットの物語「バイセンテニアル・マン」が印象的。「彼」は人間として認められたけど、それでも最期の言葉は「リトル・ミス」…。ロバート・シルヴァーバーグによる長編化作品『アンドリューNDR』で映画化されたが、原作を踏襲した結末が映画では変えてある。
 『鋼鉄都市』に始まるロボットもの長編は、初期は割と純粋にSFミステリ。2作目の『裸の太陽』は読もうとしたときまだ文庫化されていなくて、絶版だった銀背を持っている知人から借りて読んだっけ。ベイリとダニールの「友情」がいい。後期の作品は<銀河帝国興亡史>とリンクしていくが…。
 <銀河帝国興亡史>は早川版のシリーズ名だが、書名そのものは『ファウンデーション』『ファウンデーション対帝国』『第二ファウンデーション』。ちなみに創元版の帯には「風雲編」「怒濤編」「回天編」という副題?がついていた。短編連作だった初期3巻と、他作品とリンクさせるようになった後期では当然ながらかなり感じが違う。「市長」のサルヴァー・ハーディンは格好いい男だったなあ。アーケイディアちゃんの「録音転写機」、今もうあるんじゃないだろうか。ミュールと第二ファウンデーションの超能力合戦みたいになったのはちょっとアレだったが。でもアシモフが、最終的に全体主義みたいな「ゲイア」(ハードカバー時代の訳語)を選択させるとは意外だった。欠点があっても、個性があってこその人間じゃないのか? ファウンデーションの意味がなくなっちゃうし、ラストもなんだかなあ。ダニールが「神」のようになっていて、彼は本質的にはロボットだから決して間違わないんだけど、人間の少年の体を手に入れたりするのはいいの? でもダニールが気の毒になってくる…人類背負ってて大変そうで。
 ロボットものの設定を使って若手作家が連作する<電脳惑星>というシリーズが角川文庫<カドカワFシリーズ>というレーベルで一時出たけど、邦訳は4冊で中絶。
 アシモフは語りが楽しく、短編集やアンソロジー<ヒューゴー・ウィナーズ>の各編解説とかがとてもおもしろい。合間の作品も読まないといけないんだけど。SFでない純粋なミステリ連作『黒後家蜘蛛の会』も好き(2巻に収録の「殺しの噂」はトールキンの『指輪物語』ネタ)。実はこの人の作品の中で一番おもしろいと思ったのは「自伝」なのだった。邦訳はハードカバーで4冊という分厚いものだが、全然読むのに苦労しなかった。「何がいくらで売れた」ということばかり書いてある、と揶揄していた評もあったようだが、それさえもおもしろいのだ。より楽しむためにはアシモフの作品を大体読んでいるとベター。最初の妻との離婚話がやや唐突に出てくるが、他人の悪口はあまり書きたくないのだろうアシモフの性格がうかがえる。折々のエピソードは楽しいものが多く、確か友人のディ・キャンプだったと思うが、「自分の失敗もみんな書いているんだ」とアシモフが言うのへ、「だからこんなに長くなるんだね」と返してくれる話とか。「友達とはいいものだ!」
 ハインライン・クラークとともにSF御三家の一人。私がSFを読もう!と思うより前から読んでいた一人。執筆は科学解説・ノンフィクションの方が多いかもしれないけれど(それもおもしろいけれど)、この人の肩書は第一に「SF作家」だと思っている。姓の読みは「アジモフ」の方が正しいらしく、そう表記してある本もあるが、慣用としてここでは「アシモフ」を使用。ポール・フレンチ名義のジュブナイル<ラッキー・スター>シリーズという作品もある(未読、邦訳のない巻もあり)。ウェストレイクの『ニューヨーク編集者物語』に実名で出てきて、次々と原稿を送りつけてくるというエピソードに笑う。

<銀河帝国興亡史>
 『銀河帝国の興亡 1』(1968)創元推理文庫 厚木淳訳 : '80以前/B
   Foundation(1951)
 『銀河帝国の興亡 2』(1969)創元推理文庫 厚木淳訳 : '80以前/B
   Foundation and Empire(1952)
 『銀河帝国の興亡 3』(1970)創元推理文庫 厚木淳訳 : '80以前/B
   The Second Foundation(1953)
 『ファウンデーションの彼方へ』(1984)早川書房 岡部宏之訳 : '86/C
   Foundation's Edge(1982)
 『ファウンデーションと地球』(1988)早川書房 岡部宏之訳 : '89/C
   Foundation and Earth(1986)
 『ファウンデーションへの序曲』(1990)早川書房 岡部宏之訳 : '92/B
   Prelude to Foundation(1988)
 『ファウンデーションの誕生』(1995)早川書房 岡部宏之訳
   Forward the Foundation and(1993)
<ロボット・シリーズ(長編)>
 『鋼鉄都市』(1979)ハヤカワ文庫SF 福島正実訳 : '83/B
   The Cave of Steel(1954)
 『裸の太陽』(1965)ハヤカワSFシリーズ 常盤新平訳 : '83/B
   The Naked Sun(1957)
 『夜明けのロボット』(1985)早川書房 小尾芙佐訳 : '86/B
   The Robots of Dawn(1983)
 『ロボットと帝国』(1988)早川書房 小尾芙佐訳 : '88/B
   Robots and Empire(1985)
<その他の作品(長編)>
 『宇宙の小石』(1972)創元推理文庫 沼沢洽治訳 : '80以前/B
   The Pebble in the Sky(1950)
 『暗黒星雲のかなたに』(1964)創元推理文庫 沼沢洽治訳 : '80以前/C
   The Stars Like Dust(1951)
 『宇宙気流』(1977)ハヤカワ文庫SF 平井イサク訳 : '80以前/B
   The Currents of Space(1952)
 『永遠の終わり』(1977)ハヤカワ文庫SF 深町真理子訳 : '84/B
   The End of Eternity(1955)
 『神々自身』(1980)早川書房 小尾芙佐訳 : '83/B
   The Gods Themselves(1972)
 『ミクロの決死圏』(1971)ハヤカワ文庫SF 高橋泰邦訳 : '86/B
   Fantastic Voyage(1966)
<その他の作品(中短編集)>
 『ロボットの時代』(1984)ハヤカワ文庫SF 小尾芙佐訳 : '85/B
   The Rest of Robots(1964)
 『聖者の行進』(1979)創元推理文庫 池央耿訳 : '83/B
   The Bicentenial Man and other stories(1976)
 『停滞空間』(1979)ハヤカワ文庫SF 伊藤典夫他訳 : '83/B
   Nine Tomorrow(1959)
 『火星人の方法』(1982)ハヤカワ文庫SF 小尾芙佐,浅倉久志訳 : '83/B
   The Martian Way(1955)
 『木星買います』(1985)ハヤカワ文庫SF 山高昭訳 : '86/B
   Buy Jupiter and other stories(1975)
 『変化の風』(1986)創元推理文庫 冬川亘訳 : '87/B
   The Winds of Change and other stories(1983)
<その他の作品(ミステリ)>
 『黒後家蜘蛛の会 1』(1976)創元推理文庫 池央耿訳 : '82/A
   Tales of the Black Widowers(1974)
 『黒後家蜘蛛の会 2』(1978)創元推理文庫 池央耿訳 : '82/A
   More Tales of the Black Widowers(1976)
 『黒後家蜘蛛の会 3』(1981)創元推理文庫 池央耿訳 : '82/A
   Casebook of the Black Widowers(1980)
 『黒後家蜘蛛の会 4』(1985)創元推理文庫 池央耿訳 : '85/A
   Banquets of the Black Widowers(1984)
 『黒後家蜘蛛の会 5』(1990)創元推理文庫 池央耿訳 : '90/A
   Puzzles of the Black Widowers(1990)
<アシモフの科学エッセイ>
 『空想自然科学入門』(1978)ハヤカワ文庫NF 小尾信彌, 山高昭訳 : '93/B
   View from a Height(1963)
 『地球から宇宙へ』(1978)ハヤカワ文庫NF 山高昭訳 : '93/B
   From Earth to Heaven(1963)
<自伝>
 『アシモフ自伝Ⅰ―思い出はなおも若く―1920-1954』上・下(1983)早川書房 山高昭訳 : '85/A
   In Memory Yet Green(1979)
 『アシモフ自伝Ⅱ―喜びは今も胸に―1954-1978』上・下(1985)早川書房 山高昭訳 : '85/A
   In Joy Still Felt(1980)

(2014.5.17記)
ポール,フレデリック Pohl, Frederik (1919~2013*米)
コーンブルース,シリル・M. Kornbluth, Cyril Michael (1923~1958*米)
『宇宙商人』(1984)ハヤカワ文庫SF 加島祥造訳 : '86/C
   The Space Merchants(1952,53)
 ポールとコーンブルースの合作で、巨大広告代理店に支配されている未来世界を描いていて、社会風刺SFの傑作とされるもの。その評判ときれいな日本版のカバー絵が気に入って読んでみたが、正直どんな話だったか全然覚えてないなあ…。このときディストピア小説として書かれたものが現在では実現してしまったという感想も見かけたが。
 ともに10代のころにデビューしたSF作家で、第二次大戦前から合作を手がけ、長編のほか「クエーカー砲」などの短編も多数執筆。ポールは編集者としても活動し、ポールが編集する雑誌にコーンブルースが短編を寄稿したり二人の合作が掲載されたりもしたようだ。
(2019.7.14記)
ベスター,アルフレッド Bester, Alfred (1913~1987*米)
『分解された男』(1965)創元推理文庫 沼沢洽治訳 : '87/B
   The Demolished Man(1953)
 テレパシー能力者などのエスパーが存在する未来社会で、商売仇を殺した男とそれを追うエスパーの警察官との駆け引きを描くSF。華麗な文体や特殊なタイポグラフィで注目を集め、殺人者でアクの強い主人公の魅力や緊張感のある展開で人気作となり、この処女長編で第1回のヒューゴー賞を受賞した。
 第2長編『虎よ、虎よ!』は「ジョウント効果」というテレポーテーション能力が開発された社会での一人の男の復讐譚。前作以上の変則的なタイポグラフィを用いた「ワイドスクリーン・バロック」の代表作とされる作品。タイトルはウィリアム・ブレイクの詩「虎」の冒頭から。講談社版での訳題『わが赴くは星の群』は原作雑誌連載時のタイトル“The Stars My Destination”からだが、こっちの方が格好いいか?
 どちらの作品も特殊能力者の出てくる“悪漢小説”的な話で、文体を含め派手な感じの物語。作中の文字配りは原作の形に合わせているのだろうけど、活字の字体を変えたり画像的な描き文字で表現したりするなど、訳すのが難しいのはもちろん、製版も大変だったろうな…。

<その他の作品>
 『虎よ、虎よ!』(1978)ハヤカワ文庫SF 中田耕治訳 : '94/B
   Tiger ! Tiger !(1956)
 『コンピュータ・コネクション』(1980)サンリオSF文庫 野口幸男訳 : '89/C
   Extro(1974,75)

(2019.7.16記)
シラス,ウィルマー・H. Shiras, Wilmer House (1908~1990*米)
『アトムの子ら』(1981)ハヤカワ文庫SF 小笠原豊樹訳 : '82/B
   Children of Atom(1953)
 「超人」テーマの名作とされているが、現在では忘れられてしまっているかなあ。ローダンシリーズと同じく、原子力がミュータントの原因になっている(こちらは原爆被爆からでなく原子力研究所の事故からだが)。衝突が回避されてほっとする終わり方だが、ミュータントたちに思い入れして読んでいるとちょっと残念な気もする。クラークの『幼年期の終わり』ほど人類と隔たったものになったわけではないけれど、そのうちいずれ「人間」をやめようとする者も出るのでは? 自分と同じような感覚を持ったものと一緒にいる方が楽だしね。まあそれは彼らが大人になったころにもう一度考えるべきことなのかも。異質なものを排斥しようとする人間の不寛容さが普遍的な問題か。
 他の作品は見ないなあと思っていたら、作者シラスのフィクションの作品はこれ1作のようだ。女性作家だが、解説に「女性らしいやさしさ」といった表現が何回か出てくるのが今見るとちょっと気になる。
(2019.7.15記)
コーンブルース,シリル・M. Kornbluth, Cyril Michael (1923~1958*米)
『シンディック』(1985)サンリオSF文庫 千葉薫訳 : '88/C
   The Syndic(1953)
 アメリカが巨体シンジケートに支配されている未来を描く社会風刺SF。名作として知られるフレデリック・ポールとの合作『宇宙商人』の片割れの代表作。貴重なサンリオSF文庫だし、ということで読んだのだと思うが、これも内容覚えてないなあ。
 コーンブルースは10代のころにデビューした早熟な作家だったが、大雪の日に雪かきをしていて心臓発作を起こし、35歳という若さで亡くなった。
(2019.7.15記)
クレメント,ハル Clement, Hal (1922~2003*米)
『重力への挑戦』(1965)創元推理文庫 井上勇訳 : '96/B
   Mission of Gravity(1954)
 液体メタンの海と地球の700倍の重力を持つ惑星メスクリンで離陸不能になったロケットを回収するため、地球人が原住生命体と取引するという「異生物」テーマのハードSF。本の説明にはメスクリン人の姿は「シャクトリムシ」とあるが、ハヤカワ文庫版(訳題は『重力の使命』)のカバー絵はどっちかというとムカデだなあ。異星の環境や異生物の生態を科学的にリアルに描いている話だったと思うんだけど、具体的には覚えてない。そもそも本の紹介にある「なぜ彼らはその危険な仕事を引き受けたのか?」も…。「B」評価になっているし『20億の針』よりこっちを取り上げてるので、つまらなかったわけではなかったと思うのだが。
 『20億の針』は、20億人の人間の中から探偵が犯人を見つけ出そうとするのを、わらの中から一本の針を探す困難になぞらえたタイトルのSFミステリ。クレメントは一貫して「異生物」テーマのSFを書いていたとのこと、この話も探偵も犯人も地球に不時着して人間に寄生する異生物であるのがミソ。続編に『一千億の針』があるが、なんと30年近く経ってからの刊行なのは驚き。

<その他の作品>
 『20億の針』(1965)創元推理文庫 井上勇訳 : '86/B
   Needle(1950)
 『一千億の針』(1979)創元推理文庫 小隅黎訳
   Through the Eye of a Needle(1978)

(2019.7.17記)
ゴールディング,ウィリアム Golding, William (1911~1993*英)
『蠅の王』(1978)集英社文庫 平井正穂訳 : '84/D
   Lord of the Flies(1954)
 第三次世界大戦?が起こり、疎開地へ向かう途中で飛行機が墜落して子どもたちだけで孤島に取り残されるという設定の近未来小説なのでSFと言えなくもないが、超技術とかは出てこない、むしろリアリズム系のサバイバル小説。孤島に取り残された少年たちのサバイバルがうまくいく『十五少年漂流記』などに対し、殺伐とした悲劇的な展開となる、言ってみればディストピア小説。後味が大変悪く、それは小説としてよくできているからなのだろうが、楽しい物語ではないので個人的には好きではない。
 ブッカー賞やノーベル文学賞を受賞したゴールディングの代表作。
(2019.7.13記)
ブラウン,フレドリック Brown, Fredric (1906~1972*米)
『天使と宇宙船』(1965)創元推理文庫 小西宏訳 : '83/B
   Angels and Spaceships(1954)
 SF短編・ショートショートの名手ブラウンの作品集。読んだ作品集は他に『スポンサーから一言』『未来世から来た男』。坂田靖子・橋本多佳子・波津彬子の3人がブラウンの作品を漫画化したことがあって(『フレドリック・ブラウンは二度死ぬ』(朝日ソノラマ 1983)という単行本になった)、こっちの「デュオ」誌掲載を先に読んだんだったかな。坂田靖子が「狂気恐怖症」「プラセット」、橋本多佳子が「帽子の手品」「大失敗」、波津彬子が「黒猫の謎」「ミミズ天使」。大胆な改変をした橋本、なるべくそのままに描く波津、別の作品の一部を取り込む坂田、と原作の料理の仕方は三者三様。単行本には制作経緯などを語った鼎談のほか、書き下ろしの3人の合作の「血」も。漫画でも原作でも印象的だったのは「ミミズ天使」だが、こういうネタは訳すのも絵にするのも大変だったろうなー。「プラセット」もね(原作本ではともに『天使と宇宙船』所収)。「ミミズ天使」、翻訳で普通に読んでいたらからくりはまずわからないけど、原作を読んでわかった人はいたのだろうか。ブラウンの短編はユーモアのあるのも多いがホラーの味わいのものも結構ある。そういえば坂田がわざわざ伏字使ったりタイトルから省いた語が含まれる題の短編集が最近出たのだが、大丈夫なのか?
 SF長編は少ないが、文字通り「緑の小さな火星人」が出てくる風刺SF『火星人ゴーホーム』はコメディタッチでおもしろかった。ウェルズの『宇宙戦争』をふまえた作り。
 マック・レナルズと共編のアンソロジー『SFカーニバル』にはSFの各種テーマが入っている入門的作品集。両編者もそれぞれ短編を寄稿。
 ミステリ作家としては探偵エド・ハンターを主人公としたシリーズなどがあり、ブラウンの処女長編となるこのシリーズの第1作『シカゴ・ブルース』(ちなみにこの作品では主人公はまだ探偵ではない)でアメリカ探偵作家クラブ賞エドガー賞の処女長編賞を受賞した。かなり地味な話だが、少年の自立を扱った青春小説としても味わい深い。

<その他の作品>
 『スポンサーから一言』(1966)創元推理文庫 中村保夫訳 : '83/B
   Honeymoon in Hell(1958)
 『未来世界から来た男』(1963)創元推理文庫 小西宏訳 : '83/B
   Nightmares and Greezenstacks(1953,57)
 『火星人ゴーホーム』(1976)ハヤカワ文庫SF 稲葉明雄訳 : '98/B
   Martians, Go Home !(1955)
 『シカゴ・ブルース』(1971)創元推理文庫 青田勝訳 : '89/C
   The Fabulous Clipjoint(1947)
 『SFカーニバル』(1964)創元推理文庫 小西宏訳 : '87/B
   Science-Fiction Carnival(1953,57)※マック・レナルズと共編のアンソロジー

(2019.7.18記)
シェクリイ,ロバート Sheckley, Robert (1928~2005*米)
『人間の手がまだ触れない』(1985)ハヤカワ文庫SF 稲葉明雄他訳 : '98/B
   Untouched by Human Hands(1954)
 短編SFの名手として知られるシェクリイの作品集。タイトルも格好いい。評価も高い作品集だが例によって内容を覚えていないので表題作を読み返してみたが、この後の展開が気になる~。主人公たちには深刻だがユーモアのある楽しい作品。
 一時はかなり人気があった作家のようだがSFのニューウェーヴになじめず、1970年代以降は「忘れられた作家」になったとか。とはいえ1958年に発表されヒューゴー賞候補になった長編『不死販売株式会社』が1992年に「フリージャック」というタイトルで映画化されるなど、現代に通じる作品を書ける人であったようだ。
(2019.7.29記)
ウインダム,ジョン Wyndham, John (1903~1969*英)
『さなぎ』(1978)ハヤカワ文庫SF 峯岸久訳 : '84/A
   The Chrysalids(1955)
 「超人」テーマの名作SF。「破滅」テーマも入ってるかな? 核戦争?後の荒廃した世界に細々と暮らしている人々、その中に現れるミュータントの排斥、というこのころによくあった図式の物語。この手の話が好きだったらしい自分としては、主人公たちが新世界へ旅立つという希望を持った結末に高評価だったようだ。ただ、少し読み返してみたが、「同族」内でも争いや苦い展開があったり、助け手があまりに万能だったりするのが今ではちょっと引っかかるかな。
 ウインダムは「侵略・破滅」テーマのSFを多く手がけ、流星群との邂逅後盲目となった人類と食人植物との争いを描く『トリフィド時代』、UFO飛来後異質な存在として生まれた子どもたちと対峙する『呪われた村』などの作品があり、前者は「人類SOS」、後者は「光る眼」のタイトルで映画化・ドラマ化がされている。

<その他の作品>
 『トリフィド時代』(1963)創元推理文庫 井上勇訳
   The Days of Triffids(1951)
 『海竜めざめる』(1977)ハヤカワ文庫SF 星新一訳
   The Kraken Wakes(1953)
 『呪われた村』(1978)ハヤカワ文庫SF 林克己訳
   The Midwich Cuckoos(1957)

(2019.8.5記)
ノートン,アンドレ Norton, Andre (1912~2005*米)
『スター・ゲイト』(1986)ハヤカワ文庫SF 小隅黎,小木曽絢子訳 : '87/C
   Star Gate(1958)
 シリーズや連作が多そうなので単発作品をまず読んでみた。設定はSFだけど、封建的な文化の「異星」が舞台の「SFファンタジー」という話だったと思う。訳された80年代の少女漫画によくあった感じ…と言っても原作が書かれたのはかなり前なので日本とは「時差」があるんだけれど。表紙カバー・口絵・挿絵は漫画家の岡野玲子、表紙に主人公と思しき人物の顔がどんと出てるけど、それでもだいたい「挿絵」になってるかな。
 アンドレ・ノートンは本名をアリス・メアリー・ノートンという女性作家で(のち改名)、公共図書館の司書を長年務めた。他に『魔法の世界エストカープ』に始まる<ウィッチ・ワールド・シリーズ>などの冒険SFやファンタジーを多く執筆した。1983年に優れたジュブナイルのSFおよびファンタジーに与えられるアンドレ・ノートン賞が創設された。
(2019.10.15記)
ヴォネガット,カート Vonnegut, Kurt (1922~2007*米)
『タイタンの妖女』(1977)ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳 : '84/D
   The Sirens of Titan(1959)
 難解そうなヴォネガット作品の中で読みやすそうなやつ、ということで読んでみた気がする。でもやっぱりよくわからない変な話…という感じで、私にはヴォネガットは合わないかなあ。最初は振り回されるコンスタントが気の毒だと思ったけど、死ぬこともできないラムファードの方が気の毒なんじゃないかと思ったような。コンスタントの名前の「マラカイ」は旧約聖書の「マラキ書」からなんだろうなー。マラキって何した人だっけか。
 私が読んだころは「カート・ヴォネガット・ジュニア」だった。カバーの絵も和田誠ではなく、新井苑子のやつ。『プレイヤー・ピアノ』ってタイトルが気になっているんだけど、ディストピア小説だっていうし、これも表紙変わっちゃったな。
(2019.11.26記)
ヘンダースン,ゼナ Henderson, Zenna (1917~1983*英)
『果しなき旅路』(1978)ハヤカワ文庫SF 深町真理子訳 : '85/D
   Pilgrimage(1959)
 地球に住み着いた異星人が地球人に紛れてひっそり暮らしているという設定の<ピープル・シリーズ>の長編。異星人ものだが「侵略」テーマというわけではなく、「ピープル」は地球人にばれないように隠れ住んでいる。超能力もあるが、少数者だから襲われたら多勢に無勢だからかな。地球人のミュータントではないけど「超人」テーマの変種とでも言うべきか。閉塞的な辛気臭いイメージで、あまり威勢のいい話ではないので印象は良くない。短編集の『血は異ならず』も読んでみるべきだったかなあ。

<その他の作品>
 『血は異ならず』(1982)ハヤカワ文庫SF 宇佐川晶子,深町真理子訳
   The People : No Different Flesh(1967)

(2019.11.28記)

1960年代

ディクスン,ゴードン・R. Dickson, Gordon Rupert (1923~2001*米)
『ドルセイ!』(1983)創元推理文庫 石田善彦訳 : '86/C
   Dorsai!(1960)
 成人男性は傭兵として戦うことを術とするドルセイ人を描くミリタリーSFの<チャイルド・サイクル>シリーズの第1作、若き戦士の成長を描く物語…とのことだが内容忘れてるなあ。シリーズの短編「兵士よ、問うなかれ」、中編「ドルセイの決断」でヒューゴー賞受賞。シリーズ全作は訳されていない。
 『ドラゴンになった青年』はファンタジーのレーベルに入っていてドラゴンや魔法のある世界が舞台だが、異世界への行き方などの設定はSF。こっちの方がユーモアもあって楽しく読めたような。しかし訳書のタイトルは最初の部分のネタバレでは? アメリカの作品だが英国幻想文学賞を受賞した。日本版の表紙カバー絵は萩尾望都だ。のち続編も書かれ、シリーズ化された。
 ディクスンはカナダ生まれ、13歳でアメリカに移住。<ホーカ・シリーズ>などポール・アンダースンとの合作も。アメリカSF作家協会の会長も務めた。

<その他の作品>
 『ドラゴンになった青年』(1979)ハヤカワ文庫FT 山田順子訳 : '84/B
   The Dragon and the George(1976)

(2020.7.1記)
フィニイ,ジャック Finney, Jack (1911~1995*米)
『ゲイルズバーグの春を愛す』(1980)ハヤカワ文庫FT 福島正実訳 : '83/B
   I Love Galesburg in Springtime(1960)
 ノスタルジーに満ちた表題作他を収録した短編集。「昔は良かった」というものはあまり好みではないのだが、この作品集は内田善美の表紙カバー絵とともにイメージが美しい。表題作は、街が「過去」―昔からの状景―を守っているという話で、ある意味ホラーだが、懐かしく愛情深げに語られるので怖い感じはしない。過去に生きていた女性とのロマンスを描く「愛の手紙」は、一種のタイム・ファンタジーとも言える哀しくも美しい物語。ウッドロー・ウィルソンという大統領名を覚える「コイン・コレクション」は、のち長編化されて『夢の十セント銀貨』という作品になった。
 『盗まれた街』は映画「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」の原作だが、「侵略」テーマのSFホラーでこちらはかなり不気味な感じかも。ウインダムの『呪われた村』と混同していた気もして、ぱらぱら読み返してみたら案の定結末も忘れていたが、地球人はやはり野蛮だということでいいのか?

<その他の作品>
 『盗まれた街』(1979)ハヤカワ文庫SF 福島正実訳 : '85/C
   The Body Snatchers(1955)

(2020.7.2記)
ボーモント,チャールズ Beaumont, Charles (1929~1967*米)
『夜の旅 その他の旅』(1980)早川書房(改訂版 異色作家短編集4) 小笠原豊樹訳 : '87/C
   Night Ride and Other Journeys(1960)
 早川書房から全18巻・全12巻・全20巻と構成を変えて3度に渡って刊行された「異色作家短編集」の1冊。どの版にも入っているが、私が読んだのは多分2回目の改訂版のもの。タイトルが幻想的で気になったので読んでみたのだと思うが、どんな話が収録されていたか覚えてないなあ。「お父さん、なつかしいお父さん」というタイトルは覚えている気がする…。各短編のタイトルも魅力的で、ちょっとホラーっぽいのもありそうだけどもう一度読んでみようかなあ。
 ブラッドベリに師事し、「奇妙な味」を持つ作品を執筆したとのことだが、若くして病を得て亡くなった。訳者もブラッドベリを訳していた小笠原豊樹だな。
(2020.7.3記)
レム,スタニスワフ Lem, Stanisław (1921~2006*ポーランド)
『ソラリスの陽のもとに』(1977)ハヤカワ文庫SF 飯田規和訳 : '84/D
   Solaris(1961)
 惑星ソラリスの異質な生命体である“海”は、調査に来た地球人たちの思考を読み取ってもう死んだはずの人物を作り出し、主人公を含む人間たちの精神を苛む…。難解と言われるレムの作品の中ではわかりやすいと聞いたが、私は駄目だったなあ。単にハッピーエンド的な結末じゃないというのもだけど、なんか生理的嫌悪感というか気持ち悪さというか。まあその理解できない存在の違和感が感じられればいいのか?
 ハヤカワ文庫のはロシア語からの重訳で削除された部分があるとのことだが、国書刊行会の『ソラリス』はポーランド語からの全訳。多分全訳で読んだとしても難しくて私の趣味ではないだろうけど。ソ連とアメリカで1回ずつ映画化されている。
 レムは世界で高い評価を受け広く読まれているSF作家で、『ソラリス~』のほか、<泰平ヨン>シリーズや、架空の本の書評集『完全な真空』、架空の本の序文集『虚数』といった作品や国書刊行会から全6巻の<スタニスワフ・レム・コレクション>が出ている。
(2020.7.5記)
シェール,K.H. Scheer, Karl Herbert (1928~1991*独)
ダールトン,クラーク Darlton, Clark (1920~2005*独)
『大宇宙を継ぐ者』(1971)ハヤカワSF文庫 松谷健二訳 : '84/C
   Unternehmen Stardust / Die Dritte Macht(1961)
 <宇宙英雄ローダン・シリーズ>の第1巻。ドイツで複数作家によるリレー形式で週刊で発表され続けているスペースオペラ。日本版は2話を1冊として2020年7月現在620巻を数える。今は別の人たちに代わっているが、訳者の松谷健二(~241巻(全巻単独訳は213巻まで)、1998)と表紙絵・挿絵の依光隆(~367巻、2009)はそれぞれ長く一人でこなしていた。月1冊刊行だったのが近年は訳者複数体制になったこともあってか2冊刊行になって、離されるばかりだったところ同ペースになったようだが、そもそも10年の差があるので本国で終了するかペースが落ちない限り追いつかないんだよなあ。この1巻収録の話を執筆した二人は初期のこのシリーズの中心となった作家だが、すでに二人とも鬼籍にお入りのようだ。シェールは単独作の翻訳もある。
 発端から一段落するまでの10巻まではちゃんと読んで、そのあと14巻くらいまでぱらぱら読んだかな。ドイツで作られた話だけど主人公のペリー・ローダンはアメリカ人なんだよね、現実的に。米ソ冷戦の時代…。物語の中の時代は10年後に設定してあったようだが、日本版の刊行開始年だな。ローダンは「主人公」としてあまり面白みのない人だけど、副官のブリーさんほか楽しい人もいたような。でもトーラとその息子のエピソードはなあ…。特殊能力を持つミュータントたちの部隊には原爆が原因とされる日本人も何人かいるが、その「日本人」の名前がすごかったな…「意訳」しても良かったのでは? アトランが出るあたりまで読みたかったけど、50巻くらいまで読まないとだし、活躍を読むためには100巻くらい…。200巻・300巻刊行の節目にシリーズ解説の「ハンドブック」も出ている。ごく初期の頃しか読んでいないが、その後いろいろいろいろなことがあるらしい。全部読んでる人はすごい?
 2011年には物語の開始年を近未来に置き換えたリブート・シリーズ<ローダンNEO>というものも始まったが、日本版では24巻で刊行が終了した。
(2020.7.7記)
ヴァンス,ジャック Vance, Jack (1916~2013*米)
『竜を駆る種族』(1976)ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳 : '84/A
   The Dragon Masters(1962
 竜に似た異星生物を遺伝子改良?して使役し、勢力争いをしている人類のもとにその「竜」の元種族が襲来し―という冒険SF。科学的な背景説明があったかを含め、細かい内容はもうよく覚えていないのだが、異星の野に様々な姿の竜が闊歩するという格好いい視覚的なイメージが残っていて、SFファンタジー的な作品が好きな私の期待を裏切らない名作だったと思う。原著はヒューゴー賞を受賞している。日本版は「羅刹」「韋駄天」「波羅門」などといった訳語や、武部本一郎のカバー絵・挿絵もあって、さらに独特な魅力を増している。自分の中の評価「A」、あんまり覚えてないけどかなり気に入っておもしろかった印象が!
 作者ジャック・ヴァンスは本名をジョン・ホルブルック・ヴァンス、異星文明を魅力的に描き出すのに定評があるとのこと。その他の作品に『終末期の赤い地球』、<冒険の惑星(アダム・リース)>シリーズ、<魔王子>シリーズなどがある。『竜を駆る種族』が気に入ってた割にあんまり読んでないな…今度<魔王子>シリーズとか読んでみるかな。

<その他の作品>
 『終末期の赤い地球』(1975)久保書店 日夏響訳 : '95/C
   The Dying Earth(1950)

(2020.8.23記)
オールディス,ブライアン・W. Aldiss, Brian Wilson (1925~2017*英)
『地球の長い午後』(1977)ハヤカワ文庫SF 伊藤典夫訳 : '84/D
   Hothouse(1962)
 自転が停止し植物が支配するようになった遠未来の地球での矮小化した人類の物語。月とつながるまでに伸びるツナワタリ、人間に寄生するアミガサタケなどの異様な動植物が登場するグロテスクなまでに変貌した世界の姿は、想像力がすごいと思うけどちょっと気持ち悪い…そう思わせる筆力があるってことだろうけど。動植物の名前も原音そのままカタカナではなく「訳して」あるので、苦労したのだろうな。しかしこういう人類がショボい話は個人的にあんまり好きじゃないんだよなあ。なので、ヒューゴー賞受賞の作品だけど私はちょっと…。でも結末を今確かめたら、へえこんな風だったかとすっかり忘れていた。
 IFの世界ものである『マラキア・タペストリ』は、恐竜もいる中世風の世界になっている地球が舞台。ファンタジーっぽい感じなのかなと読んでみたのだけど、なんかやはりオールディスは私に合わないかな?
 オールディスはSFの「ニューウェーヴ」の代表者の一人とされるイギリスの作家で、「破滅・終末」テーマものの『子供の消えた惑星』や、評論『十億年の宴』などの著作がある。

<その他の作品>
 『マラキア・タペストリ』(1986)サンリオSF文庫 斎藤数衛訳 : '86/C
   The Malacia Tapestry(1976)

(2020.8.25記)
バージェス,アントニイ Burgess, Anthony (1917~1993*英)
『時計じかけのオレンジ』(1977)ハヤカワ文庫NV 乾信一郎訳 : '87/D
   A Crockwork Orange(1962)
 若者が暴力をふるい、国家が精神療法による矯正を行うといういずれも悪夢的な世界の話だが、近未来の管理社会という設定なのでSFと言える。キューブリックによる映画がヒューゴー賞の映像部門を受賞しているが、その映画で一躍有名になった作品で、今あらすじとか調べると映画のものばかり出てくるな。展開が展開だけにもちろん楽しい話ではないが、インパクトはある反社会的な物語。主人公の暴力的な行動についてはよく語られているが、国家による精神療法というのもかなりやばいことなのでは? 「悪人」に施される「治療」はある意味「刑罰」なので、その是非を問う声が目立たないのだろうか。確かにレイプのシーンがあったことなどは覚えてるけど、「治療」のところとかはあまり覚えてなかった…。主人公たちの使う「ナッドサット言葉」というスラングも有名。イギリスの作品だが、アメリカで出版された際に最終章が削除されており、映画や日本の最初の翻訳版も削除版が元だったが、のち「完全版」が訳出された。主人公が改心するような最終章の内容については賛否両論があるようだ。
 バージェスは東南アジアやアメリカなど世界各地に住み、詩や評論など多くの著作を残した。
(2020.9.6記)
ブラッドリー,マリオン・ジマー Bradley, Marion Zimmer (1930~1999*米)
『オルドーンの剣』(1987)創元推理文庫 大森望訳 : '87/B
   The Sword of Aldones(1962)
 惑星ダーコーヴァに不時着した人類の築いた社会を描く<ダーコーヴァ年代記>の第2作。書籍としては第1作『惑星救出計画』と同時に最初に出版され、構想としては初期からあったものだが、物語の中の時代としては最後の方で起こる重要な出来事を扱った、シリーズのまとめと言える作品。6作目の『惑星壊滅サービス』までで地球人との再接触の時代が描かれ、7作目の『ダーコーヴァ不時着』で最初期の宇宙船不時着直後が書かれた後、ファンライターによるものや彼らとの合作を含め、その間を埋める物語が書き継がれた。地球人と再接触するまでの、超能力を持つ人々のいる社会の中での興亡は、SFというよりファンタジーの味わいに近い。時系列順に書かれてはいないので、シリーズ内では厳密に考えると矛盾があったりもするが、細かいことはさておき、多彩なキャラクターや彼らの織りなすドラマを楽しむ作品であると思う。邦訳、すでに全作絶版のようだが、予定されていた単独作の残り2~3作は訳しておいて欲しかったな…。
 他に、アーサー王伝説を妖姫モーゲン視点で語り直した<アヴァロンの霧>、トロイアの王女カッサンドラーの悲劇を描いた<ファイアーブランド>などの作品がある。ブラッドリーは当時のSF界の男性中心的な風潮に対し、女性や性について大胆で自由な描写をした女性作家である(本人の信条表明や作品内の表現ならなんら問題はないのだが、没後に実娘への性的虐待があったとの告発がなされている)。

<ダーコーヴァ年代記> 創元推理文庫
 『惑星救出計画』(1986) 大森望訳 : '87/B
   The Planet Savers(1962)
 『はるかなる地球帝国』(1986) 阿部敏子,内田昌之訳 : '87/B
   Star of Danger(1965)
 『宿命の赤き太陽』(1986) 浅井修訳 : '87/B
   The Bloody Sun(1964)
 『炎の神シャーラ』(1987) 赤尾秀子訳 : '87/B
   The Winds of Darkover(1970)
 『ダーコーヴァ不時着』(1987) 細美遥子,宇井千史訳 : '88/B
   Darkover Landfall(1972)
 『惑星壊滅サービス』(1987)庫 中村融訳 : '87/B
   The World Wreckers(1971)
 『カリスタの石』(1987) 阿部敏子訳 : '88/B
   The Spell Sword(1974)
 『ハスターの後継者』上・下(1987) 古沢嘉通訳 : '88/B
   The Heritage of Hastur(1975)
 『ドライ・タウンの虜囚』(1987) 中原尚哉訳 : '88/B
   The Shattered Chain part1(1976)
 『ヘラーズの冬』(1987) 氷川玲子,宇井千史訳 : '88/B
   The Shattered Chain part2,3(1976)
 『禁断の塔』上・下(1988) 浅井修訳 : '88/B
   The Forbidden Tower(1977)
 『ストームクイーン』上・下(1988) 中村融,内田昌之訳 : '88/B
   Stormqueen !(1978)
 『ホークミストレス』上・下(1988) 氷川玲子,中原尚哉訳 : '88/B
   Hawkmistress !(1982)
 『キルガードの狼』上・下(1988) 嶋田洋一訳 : '89/B
   Two to Conquer(1980)
<ダーコーヴァ年代記・外伝> 創元推理文庫
 『ナラベドラの鷹』(1987) 宇川真実子訳 : '88/B
   Falcons of Narabedla(1964)
 『時空の扉を抜けて』(1987) 山本圭一訳 : '88/B
   The Door Through Space(1962)
<アヴァロンの霧> ハヤカワ文庫FT 岩原明子訳 The Mists of Avalon(1983)
 『異教の女王』(1988) : '90/B
 『宗主の妃』(1988) : '90/B
 『牡鹿王』(1988) : '90/B
 『円卓の騎士』(1989) : '90/B
<ファイアーブランド> ハヤカワ文庫FT 岩原明子訳 The Firebrand(1987)
 『太陽神の乙女』(1991) : '96/B
 『アプロディーテーの贈物』(1991) : '96/B
 『ポセイドーンの審判』(1991) : '96/B

(2020.9.7記)
シマック,クリフォード・D. Simak, Clifford Donald (1904~1988*米)
『中継ステーション』(1977)ハヤカワ文庫SF 船戸牧子訳 : '81/A
   Way Station(1963)
 アメリカの片田舎に住む平凡な男の家は、実は星々をつなぐ「中継ステーション」だった…というSF。ときおりさまざまな異星人が立ち寄るだけだったのが、当局に感づかれ、何十年も同一人物が同じ雑誌を購読していることに気づかれ…とその日常が揺らぎ始め、第三次世界大戦の危機やら宇宙からの犯罪者やら、主人公にも地球側にも宇宙側にも大きな変化が訪れ…とスケールが大きくなっていく。地味目な印象で自分の中で高評価だったのがちょっと驚きだが、読ませるうまい物語で、ヒューゴー賞を受賞している名作。これが書かれたのは50年以上前だが、当時は南北戦争の生き残りが「数年前」まで生きていたんだな。現代日本で言えば日露戦争の…とかいう感じ?
 シマックはアメリカSFファンタジー作家協会からグランド・マスター賞を授与された重鎮だが、牧歌的な作風のためかあんまり目立たない? 代表作『都市』は、人類がいなくなった後の地球の物語ということで、人類が活躍して欲しい私としては寂しいので未読だったりする。他に、小鬼やら竜やらの出てくるファンタジー風味のユーモアSF『小鬼の居留地』などの作品がある。

<その他の作品>
 『小鬼の居留地』(1977)ハヤカワ文庫SF 足立楓訳 : '80以前/B
   The Goblin Reservation(1968)

(2020.9.21記)
ライバー,フリッツ Leiber, Fritz (1910~1992*米)
『放浪惑星』(1973)創元推理文庫 永井淳訳 : '86/C
   The Wanderer(1964)
 突如現れた謎の天体が月を破壊し地球上にも影響を及ぼし…というパニックSF。災害小説として読むと興味深いとか。ヒューゴー賞受賞作で、感想を探すと、絶賛するものとともに、展開が冗長とか視点が切り替わるのがわかりにくいとか、あまり評価しないものも目につく(私もあんまり内容覚えてないなー)。ファーストコンタクトものでもあり、猫型異星人?が出てくる。確か表紙絵になっていたよなと確認しようとしたら変わっちゃったのかー(と思ったらこれも2代目表紙だったようだ)。
 他に、世界幻想文学大賞を受賞したダーク・ファンタジー『闇の聖母』、サンリオSF文庫で訳出された短編集『バケツ一杯の空気』、ヒロイック・ファンタジー<ファファード&グレイ・マウザー>シリーズなどの作品がある。<ファファード&グレイ・マウザー>シリーズは未訳だった2冊が近年訳出されたが、ライバーはヒロイック・ファンタジーを表す「剣と魔法」という言い方を初めて使った人とされているらしい。
(2020.9.23記)
ハーバート,フランク Herbert, Frank (1920~1986*米)
『デューン 砂の惑星』1~4(1972~1973)ハヤカワ文庫SF 矢野徹訳 : '77/B
   Dune(1965)
 砂漠の惑星アラキスを主な舞台として、巨大な砂虫とメランジと呼ばれるスパイス(ドラッグ?)を巡って繰り広げられる権力闘争を描くSF年代記<デューン>シリーズの第1作。生態学者への献辞があり、「エコロジーSF」などと言われたが、まだ環境問題だの「エコ」だのが全然一般の話題になっていない頃だ。キリスト教やイスラム教、遊牧民の生活を参考に、スティルスーツなどのSF的ガジェット、「ベネ・ゲセリット」などの暗躍する団体、砂虫ほかの驚異の異星生物を生み出した壮大な物語はヒューゴー賞・ネビュラ賞両賞を受賞し、ジョージ・ルーカスの映画<スター・ウォーズ>、宮崎駿の漫画『風の谷のナウシカ』などにも影響を与えたという。この作品そのものの映像化の企画は何度か頓挫したのち(そのうちの一つアレハンドロ・ホドロフスキー監督の場合はのちにドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』が製作された)、1984年にデイヴィッド・リンチ監督の映画で実現した。その後、別にテレビ版も製作され、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督で新しく映画化もされている。
 「砂漠の救世主」から「砂丘の大聖堂」まで本人による続編が5作書かれ、のち息子ブライアン・ハーバートとケヴィン・J.アンダーソンとの共著で前日譚<デューンへの道>シリーズや直接の続編が執筆されている。中高生の時なぜか2作目から読み出し、5作目までは読んだ(もう1作なら読んでおけば良かったか)。本質的でない感想としては、ダンカン・アイダホがなんか大変なことになったなあ…ということ。6作全編通して出てる唯一の人物だと思うけど、最初はただの武人じゃなかったっけ。あとエイリアが気の毒。結構格好良かったのに。全体としてはおもしろかったけど、いろいろなものが出てきて巻末の用語解説が助かったかも(でも2作目の「救世主」にはその用語解説がなかったんだよな~)。日本版では3作目までは当初石森章太郎(当時の表記)の表紙・挿絵だったが、のち1作目は映画写真に、2作目以降は加藤直之に変更。翻訳は矢野徹だったが、1作目は近年新訳版が出ているようで、人名や用語の翻訳にも変更があるようだ。

<デューン>シリーズ ハヤカワ文庫SF 矢野徹訳
 『デューン 砂漠の救世主』(1973) : '77/B
   Dune Messiah(1969)
 『デューン 砂丘の子供たち』1~3(1978~1979) : '79/B
   Children of Dune(1976)
 『デューン 砂漠の神皇帝』1~3(1984) : '86/B
   God Emperor of Dune(1981)
 『デューン 砂漠の異端者』1~3(1985) : '86/B
   Heretics of Dune(1984)
 『デューン 砂丘の大聖堂』1~3(1986~1987)
   Chapterhouse : Dune(1985)

(2020.9.25記)
ブラナー,ジョン Brunner, John (1934~1995*英)
『テレパシスト』(1975)創元推理文庫 伊藤哲訳 : '82以前/D
   Telepathist(1965)
 「超人」テーマもので主人公が「テレパシスト」なのだが、このころのものによくあるように超能力者が障害者という設定で、現在では訳語の関係でそのまま再版はできないだろうな。それはさておくとしても、あんまり楽しいイメージがなくておもしろくなかった印象。国連や世界保健機構や実在の国の名前などが出てくる近未来もので戦争?テロ?が起きたりしていて、世界がぱっとしない感じ。主人公の境遇は良くなってストーリーも前向きに終わるようだが、地味だったか?
 ブラナーには1968年に人口過剰問題を扱った“Stand on Zanzibar”というヒューゴー賞受賞作があるのだが、最近の以外のヒューゴー賞受賞長編で翻訳されていないのはこれだけじゃないのか? サンリオSF文庫で出す予定があったらしいが、出なかったものの一つ。サンリオSF文庫の企画はその後再刊や新訳も結構あったが、どこかでこれを改めて出そうという企画はないのだろうか。
(2020.9.26記)
ラッセル,エリック・フランク Russel, Eric Frank (1905~1978*英)
『わたしは“無”』(1975)創元推理文庫 伊藤哲訳 : '86/C
   Somewhere a Voice(1965)
 未開の惑星に不時着した遭難者たちを描く、原書の方の表題作「どこかで声が……」、独裁者が一人の少女と出会って…という、日本版の方の表題作「わたしは“無”」など、6編が収録された短編集。出版目録に、作者自身が「いくら飽くことを知らぬ読者でも満足されるに違いない」と述べたと紹介されているが、この文句にひかれて読んだんだっけ? 正直ほとんど内容覚えていないのだけど、なかなかヒューマニズムあふれる味わい深い作品集だったようだ。
 ラッセルは短編でイギリス人初のヒューゴー賞を受賞した作家だが、今は忘れられているかなあ。
(2020.9.27記)
ハインライン,ロバート・A. Heinlein, Robert Anson (1907~1988*米)
『月は無慈悲な夜の女王』(1976)ハヤカワ文庫SF 矢野徹訳 : '88/A
   The Moon Is a Harsh Mistress(1966)
 圧政に苦しむ月植民地で、技術者がコンピューターとともに地球からの独立を目指す革命の物語。社会に、政治に不満があるなら自ら行動して変革せよ、というアメリカの正しい右翼…と言って語弊があるなら、アメリカの良心、前向きで健全な精神がよく示されている話だと思う。ハインラインならまず『夏への扉』なのかもしれないが、この話が私にはいちばんハインラインらしく感じられ、しかもストーリー的にも読みごたえがあっておもしろかったので。訳者がハインラインのヒューゴー賞受賞4作のうちの最高作と言うのもうなずける。私が読んだ本の表紙カバーはブロンズ像?の横顔にクレーターがある絵だったかな。
 SFの入門作品としてもよくあげられる『夏への扉』、もちろん嫌いじゃないよ~読みやすいし良いお話です。「時間」テーマの冒険小説兼恋愛小説というところか。ピートもとい護民官ペトロニウスは主人公じゃないけど、猫好きのSFファンに愛されているよね。後ろ姿の猫の表紙絵、変わっちゃったんだっけ。新訳になったらしいので、「文化女中器」とかの用語はもうないんだろうなあ。しかし物語の開始時点の1970年も当時は近未来で冷凍睡眠後の未来も2000年って…。2000年でも「文化女中器」ないぞー。聖書に出てくる長命者メトセラの名前を使った物語『メトセラの子ら』では、「長命族」は人為的にとはいえ単なる生物的な結果なのだけど、こういうのってやっぱり妬まれるんだよな。SFシリーズ版の訳題は『地球脱出』だが、そのことより主人公ラザルス・ロングのキャラクターが魅力的で、続編も書かれている。好戦的として批判されることもある『宇宙の戦士』は、「軍隊」のありようをそれなりに説得力も持って描いていると思う。機動歩兵っていうのは日本のロボット・アニメの「モビルスーツ」のモデルになったんだっけ。映画化もされている。火星からの生き残りの男を巡る宗教的なごたごたを描く『異星の客』は、ヒッピーの経典ともてはやされたというが、ちょっとわかりにくい話だったような。このいわば対照的な2作『宇宙の戦士』と『異星の客』も、ともにヒューゴー賞を受賞している。共通の世界観を持つ<未来史>の短編集『地球の緑の丘』は、表題作に出てくる詩が印象的。訳はいくつかあり、私が最初に読んだのは新潮文庫のアンソロジー『スターシップ』収録の宮脇孝雄訳のもの。SFシリーズ版の田中融二訳はちょっと硬いかな。文庫版の矢野徹訳はSFシリーズ版の訳を下敷きにしているようだがずっと滑らかになっていて口にのぼせやすい。詩は語呂も大事だよなー。ハインラインはジュブナイル作品も多く手がけ、『赤い惑星の少年』という題で講談社から児童書として訳されていた『レッド・プラネット』などがある。
 アシモフ・クラークとともにSF御三家の一人。初期は右翼とかよく言われるけど、ストレートでわかりやすい話を書いていたと思う。後期の作品は読んでないけど、どんどん本が分厚くなっていったような。

<その他の作品>
 『夏への扉』(1979)ハヤカワ文庫SF 福島正実訳 : '83/B
   The Door into Summer(1957)
 『メトセラの子ら』(1976)ハヤカワ文庫SF 矢野徹訳 : '82/B
   Methuselah's Children(1941,1958)
 『宇宙の戦士』(1977)ハヤカワ文庫SF 矢野徹訳 : '86/C
   Starship Troopers(1959)
 『地球の緑の丘』(1962)ハヤカワSFシリーズ 田中融二他訳 : '88/B
   The Green Hills of Earth(1951)
 『異星の客』(1969)創元推理文庫 井上一夫訳 : '90/C
   Stranger in a Strange Land(1961)
 『レッド・プラネット』(1985)創元推理文庫 山田順子訳 : '93/C
   Red Planet(1949)

(2020.11.15記)
ホイル,フレッド Hoyle, Fred (1915~2001*英)
『10月1日では遅すぎる』(1976)ハヤカワ文庫SF 伊藤典夫訳 : '87/C
   October the First Is Too Late(1966)
 様々な時代が各地に同時に存在してしまう異変が起こった地球が舞台の「時間」テーマのSF。科学者としての作者の時間・意識論を描いたという小説。あんまり覚えていないので感想を探してみたら、アイデアは大変おもしろいが結末が今一つ、みたいなものが多い。とはいえ、思わせぶりなタイトルと日本版の美しい表紙カバー絵は素敵で、そこにひかれて読んだと言ってもよいかも。主人公が作曲家なので、章題他に音楽が使われていることもおもしろい。
 ホイルはビッグバン理論を否定する定常宇宙論を唱えた天文学者だが、「ビッグバン」という言葉を初めて使ったとされている。1972年にはナイトの称号を授けられた。『天文学の最前線』などの一般向けの科学書のほか、SF小説『暗黒星雲』などの著作がある。
(2020.11.24記)
キイス,ダニエル Keyes, Daniel (1927~2014*米)
『アルジャーノンに花束を』(1978)早川書房 小尾芙佐訳 : '83/A
   Flowers for Algernon(1966)
 知能を高める手術という架空の「技術」のもたらす出来事を、本人の手記という形で描いたSF。手記「経過報告」の文章が、知的障害者だった主人公の知能が高くなるにつれしっかりしていき、やがて前と同じような状態に戻っていくことで状況を描写する。日本版では、言葉遣いはもちろん一人称の使い方や、初期と最後のころの文章をひらがなの多用、誤字、句読点の欠落ということで表している。主人公の心理状態や周囲の人々の思惑や環境が手記の中で明らかになっていくさまが秀逸で、「頭が良く」なっても「良い」ことばかりではないという皮肉な面も表される。先に手術を受けたネズミのアルジャーノンの行く末から、主人公自身の将来も明るくないことが暗示されるが、それでも希望を持って自ら施設へ行こうとし、アルジャーノンの墓に花束を供えてくれと書き残す最後の文に泣かされる話。自分が確実に退行していくのを感じているのは恐ろしいだろうな…それがわかっている間は。しかしネズミの一生は短いのだから、ネズミの実験後その結果を見届けずに人間に使用するようなことは現実にはあり得ないはずだけどね。経過が急激すぎるけど、当時はあまり知られていなかったかもしれない認知症のようなものと言えるかも。決して楽しい話ではないけれど、傑作であるとは思う。SF読みの人以外にも広く読まれ、いろいろ深読みされたり言われたりしているが、まずは読んでみて、というところ。
 1959年に中編の形で発表され、1966年に長編化された。中編はヒューゴー賞、長編はネビュラ賞を受賞した。日本版は長編は最初はハードカバーのSFノヴェルズの叢書で出て、その後単独のハードカバーになり長く文庫化されなかったが、1999年に「ダニエル・キイス文庫」の1冊として文庫化され、2015年に一般文庫になった(SFではなくNVで)。1968年に初めて映画化され(邦題は「まごころを君に」)、その後何度も映画化・テレビ化・舞台化がされている。
 キイスは小説家としてはほぼこれ1作のみの作家で、他にいわゆる多重人格、解離性同一性障害を扱ったノンフィクション『24人のビリー・ミリガン』などの著作がある。
(2020.12.15記)
ギャレット,ランドル Garrett, Randall (1927~1987*米)
『魔術師が多すぎる』(1971)ハヤカワ・ポケット・ミステリ 皆藤幸蔵訳 : '91/C
   Too Many Magicians(1966)
 科学の代わりに魔術が発達した世界での密室殺人事件、という推理もの。ファンタジーと本格推理小説を組み合わせた異色の作品というのでおもしろそうと読んでみたのだと思うのだが、自分の評価あまり良くないうえに内容覚えてないなあ。あらすじや感想を探してみると、設定がんばっているけど…的なものが多いが、魔術の使えない捜査官ダーシー卿と魔術師マスター・ショーンのコンビが楽しいとか。同じダーシー卿の出てくる作品としてほかに短編が10作あり、9作が邦訳されたが、短編集『魔術師を探せ!』収録は3作で、残りの6作はアンソロジー収録・雑誌掲載のみ。ミステリの叢書で出ているが、「魔術」がある世界の話なのでこちらで。
 他に、SF作品『銀河の間隙より』などがある。

<その他の作品>
 『魔術師を探せ!』(1978)ハヤカワ・ミステリ文庫 風見潤訳
   The Eyes Have It, and other stories(1978)

(2020.12.23記)
シュミッツ,ジェイムズ・H. Schmitz, James Henry (1911~1981*米)
『惑星カレスの魔女』(1987)新潮文庫 鎌田三平訳 : '87/C
   The Witches of Karres(1966)
 しがない宇宙船乗りが超能力者の三姉妹の少女たちに振り回されつつ、銀河系規模のごたごたに巻き込まれていくという冒険SF。翻弄されるおじさん主人公と次女を中心としたかわいい「魔女」たちの元気な活躍を楽しむ話だったかな。主人公と次女がいい感じになったんだっけと思ったらそうでもなかったか。ちょっと期待したけどそれほどでもなかったという感じだったような。表紙カバー装画は宮崎駿で、好き嫌いは分かれそう。のちカバーもそのまま創元SF文庫で再刊された。
 シュミッツは寡作な方で、日本でもあまり翻訳の機会に恵まれなかったようで、評判の良かったらしい『惑星カレスの魔女』も20年以上経ってからの翻訳。他に『テルジーの冒険』などの作品がある。
(2020.12.29記)
スワン,トマス・バーネット Swann, Thomas Burnett (1928~1976*米)
『薔薇の荘園』(1977)ハヤカワ文庫SF 風見潤訳 : '81/B
   The Manor of Roses(1966)
 ローマ建国者のロムルスとレムス兄弟の悲劇を、ファウニ族(フォーン)の少年?が語る「火の鳥はどこに」、旧約聖書「エステル記」に出てくるペルシャ王の妃ワシテに恋する小人の物語「ヴァシチ」、グリフォンや食人鬼マンドレイク族がいる中世世界で十字軍に憧れる二人の少年と謎の少女との旅を描く「薔薇の荘園」の3編を収録した、日本で独自に編まれた中編集。どれも実在の歴史や伝説にファンタジー的要素を絡めていくスタイルで、幻想的で美しい。ファンタジー作品集だが、まだハヤカワ文庫FTが創刊前だったためかSFの方で刊行。表紙カバー装画は萩尾望都。
 処女長編『ミノタウロスの森』は、古代クレタを舞台に、人間と木の精との間に生まれた姉弟がミノタウロスとともに侵略者と戦うという物語。『幻獣の森』はその前日譚。この連作の表紙カバー装画は竹宮惠子。
 スワンはあまり広く読まれたとは言い難いが、好きな人には好まれるタイプの作家だと思う。

<その他の作品>
 『ミノタウロスの森』(1992)ハヤカワ文庫FT 風見潤訳 : '93/C
   Day of the Minotaur(1966)
 『幻獣の森』(1994)ハヤカワ文庫FT 風見潤訳 : '96/C
   The Forest of Forever(1971)

(2020.12.31記)
セント・クレア,マーガレット St.Clair, Margaret (1911~1995*米)
『アルタイルから来たイルカ』(1983)ハヤカワ文庫SF 矢野徹訳 : '85/C
   The Dolphins of Altair(1967)
 人類とイルカはかつて一つの種族だったが、人類が両グループ間の「聖約」を忘れて破ったとき…という、ある意味「破滅」テーマものの海洋SF。「海洋SF」というか「イルカSF」というべきジャンル?の一角をなすものだと思う。今なら環境問題ものとも言えるかな。情感豊かで描写は美しいが、人類が愚かなのはちょっと悲しいので、そういう意味でもあまり好きでなかったのか、内容覚えていないなあ。そういや、なんで「アルタイル」だったのかな。距離16.7光年で割と近いから?
 作者はまだSF界に女性作家がほとんどいなかったころから活動してきたベテラン作家だが、邦訳長編はこの1冊のみ、あと短編集が1冊訳出されているほかは、翻訳はアンソロジー収録や雑誌掲載の短編のみと、あまり日本では人気がなかったか。
(2021.2.12記)
マキャフリイ,アン McCaffrey, Anne (1926~2011*米)
『竜の戦士』(1982)ハヤカワ文庫SF 船戸牧子訳 : '83/A
   Dragonflight(1968)
 炎を吐く「竜」とそれに乗った「騎士」が、空から降ってきて有機物を食う胞子状生物「糸胞」と戦うという<パーンの竜騎士>シリーズの第1作。この第1作は中編として発表されたものをまとめて長編化したもので、第一部となる「大巖洞人来たる」でヒューゴー賞を、第四部となる「つめたい宇宙間隙」でネビュラ賞を、女性作家として初めて受賞した(ともに「中長編」のノヴェラ部門)。活気あふれる登場人物、リアルな「竜」や世界の描写が魅力的で楽しい。2巻以降の「旧時代人」の扱いや、『竜の反逆者』の展開などでちょっとう~んなこともなくはないけど、竜騎士以外でも多くの個性的な人物が出てきて、キャラクター小説としても楽しめる。ファンタジーのように読める物語だが、「序」でこの世界が植民された「異星」で、この物語は「SF」であると示される。のち初めて地球からの宇宙船がやってきたときの過去編や、様々な技術が「再発見」されるさま、地球からの遺産であるコンピュータの「発掘」などが描かれた物語が書き継がれた。タイムトラベルが行われる「時間」テーマSFとしての側面もある。日本では未訳だが、晩年から没後は息子との共作もある。
 マキャフリイの作品で最初に読んだのは短編集『塔の中の姫君』で、「塔の中の姫君」「精神の邂逅」はのちそれぞれ長編化され『銀の髪のローワン』『青い瞳のダミア』となり、<九星系連盟シリーズ>としてその後の話も書き継がれたが、長編の方は最初のしか読んでないな。でもアフラのキャラは結構好きだったような。<パーンの竜騎士>シリーズの短編「最年少のドラゴンボーイ」は用語とか統一されていないし、本編第1作を読んでからの方がベターだが、これだけでも楽しめる。<パーンの竜騎士>の短編はもう一つ、アンソロジー『ファンタジイの殿堂 伝説は永遠に』の2巻に収録の「パーンの走り屋」がある(なんでSFじゃなくてファンタジーの方のアンソロジーに?)。<歌う船>シリーズの「蜜月旅行」は、この作品の前書きにもあるように『歌う船』を読んでいることが前提で、あとで読んだのでややわかりにくかったかな。障害のある人間が宇宙船の頭脳として働くという物語で、『歌う船』の主人公は「宇宙船」であっても元気な女性で楽しい。この作品は「バディもの」だよね。設定を同じくした話が、シリーズとして他の作家との合作やマキャフリイ「原案」で書き継がれた。
 『クリスタルシンガー』は挫折から始まる小気味の良いサクセスストーリーだけど、SF版「風と共に去りぬ」という感じで主人公はアクが強く、訳者の方も「虫が好かない」と書いていたりする。それは抜きにしても、続編『キラシャンドラ』で前作の成功をどうでもいいような感じにしてしまうところが残念だったなあ。ランゼッキ割と好きだったのに。なお『クリスタルシンガー』の原書の絵をそのまま使った表紙カバー絵が、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」のサントラの写真に似ているのは偶然か?
 アイルランドに移住したのでwikiでは「(アメリカ生まれの)アイルランドの作家」になってるが、やはり「アメリカの作家」のイメージ。作品にハッピーエンドのロマンスが含まれるのが多いのは時代もあるのかもしれないが、それはそれで楽しい。

<パーンの竜騎士> ハヤカワ文庫SF
 『竜の探索』(1982) 小尾芙佐訳 Dragonquest(1971) : '83/A
 『白い竜』(1982) 小尾芙佐訳 The White Dragon(1978) : '83/B
 『竜の歌』(1986) 小尾芙佐訳 Dragonsong(1976) : '86/B
 『竜の歌い手』(1988) 小尾芙佐訳 Dragonsinger(1977) : '89/B
 『竜の太鼓』(1990) 小尾芙佐訳 Dragondrums(1979) : '90/B
 『竜の反逆者』(1995) 小尾芙佐訳 The Renegades of Pern(1989) : '96/B
 『竜の挑戦』上・下(2001) 小尾芙佐訳 All the Weyrs of Pern(1991) : '05/B
 『竜とイルカたち』(2005) 小尾芙佐訳 The Dolphins of Pern(1994) : '11/B
 『竜と竪琴師』(2007) 小尾芙佐訳 The Masterharper of Pern(1998) : '11/B
<パーンの竜騎士・外伝> ハヤカワ文庫SF
 『竜の夜明け』上・下(1990) 浅羽莢子訳 Dragonsdawn(1988) : '90/B
 『竜の貴婦人』上・下(1991) 幹遙子訳 Moreta : Dragonlady of Pern(1983) : '91/B
 『ネリルカ物語』(1991) 幹遙子訳 Nerilka's Story(1986) : '92/B
<九星系連盟シリーズ> ハヤカワ文庫SF 公手成幸訳>
 『竜の夜明け』上・下(1990) 浅羽莢子訳 Dragonsdawn(1988) : '90/B
 『銀の髪のローワン』(1993) The Rowan(1990) : '93/B
 『青い瞳のダミア』(1995) Damia(1992)
 『ダミアの子供たち』(1996) Damia's Children(1993)
 『ライアン家の誇り』(1996) Lyon's Pride(1994)
<その他の作品>
 『歌う船』(1984)創元推理文庫 酒匂真理子訳 : '84/B
   The Ship Who Sang(1969)
 『クリスタルシンガー』(1984)ハヤカワ文庫SF 浅羽莢子訳 : '84/B
   Crystal Singer(1982)
 『キラシャンドラ』(1987)ハヤカワ文庫SF 浅羽莢子訳 : '87/C
   Killashandra(1985)
 『塔の中の姫君』(1981)ハヤカワ文庫SF 浅羽莢子訳 : '81/B
   Get off the Unicorn(1977)

(2021.2.13記)
ディック,フィリップ・K. Dick, Philip Kindred (1928~1982*米)
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(1969)ハヤカワSFシリーズ 浅倉久志訳 : '87/C
   Do Androids Dream of Electric Sheep ?(1968)
 核戦争後の荒廃した地球という舞台、動物のペットを持つことがステータス・シンボルとなる時代、逃亡したアンドロイドとそれを追う人間の主人公との攻防というストーリー。ハリソン・フォード主演の映画「ブレードランナー」の原作としてあまりにも有名。映画には「マーサー教」は出てこないし、小説には「レプリカント」という言葉は使われていなかったし、違うところも多いけど、どちらも鮮烈な印象を残す作品。猥雑な近未来の風景と「人間とは何か」といった哲学的な問いを描いた問題作。最近こそ長いタイトルの作品多くなったけど、直訳のこの長いタイトルも印象に残る。wikiによると映画では「アンドロイド」が機械を連想させるので避けたというのがタイトルを変えた理由とあるが、有機アンドロイドというものもあるということはまだ一般ではわかりにくいと思われたのか。あとこういう長いタイトルではヒットしないと思われたのか?
 処女長編『偶然世界』は、権力がくじ引きのようなもので移ってしまったら…という世界を描く。なんでそんなシステムになっているか書いてあったっけか。原題を直訳した『太陽クイズ』から改題されたが、どっちがふさわしいかな? 第二次大戦で枢軸国側が勝ち、アメリカが日本の勢力下にあるというIFの世界ものでヒューゴー賞を受賞した『高い城の男』では、「易」が重要なものになっているというところもおもしろいかも。東洋思想って人気があったりするからかな。やはり長いタイトルが気になる『流れよ我が涙、と警官は言った』は、ある日突然自分が書類の記録上からも知人の記憶上からも存在しなくなるという悪夢を描く。なぜそんなことになつたのか、という理由は覚えてなかったな…。
 ディックの作品は、ときにドラッグの影響が批判されたりするように気楽な楽しい話ではないものが多いが、優れたアイディアとその強烈な不安感のようなものが強い印象を残す。カルト的な人気があり多くの作家に影響を与えたほか、没後アメリカでペーパーバックで刊行されたSFの最優秀作品に与えられるフィリップ・K.ディック賞が設けられた。サンリオSF文庫で一時次々と翻訳されたが、サンリオSF文庫廃刊後も復刊・新訳が続き、SF長編はすべて翻訳刊行された。

<その他の作品>
 『偶然世界』(1977)ハヤカワ文庫SF 小尾芙佐訳 : '85/C
   Solar Lottery(1955)
 『高い城の男』(1984)ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳 : '86/C
   The Man in the High Castle(1962)
 『流れよ我が涙、と警官は言った』(1981)サンリオSF文庫 友枝康子訳 : '88/C
   Flow My Tears, the Policeman Said(1974)

(2021.2.17記)
ニーヴン,ラリイ Niven, Larry (1938~ *米)
『中性子星』(1980)ハヤカワ文庫SF 小隅黎訳 : '84/A
   Neutron Star(1968)
 地球近辺の探査済の恒星・植民済の惑星からなる宙域「ノウンスペース(既知空域)」での物語、という共通設定の中のシリーズの短編集。ヒューゴー賞を受賞した表題作の「中性子星」では、この収録8編中4編に登場する人気キャラクター、宇宙船乗りベーオウルフ・シェイファーが活躍する物語の一つ。同シリーズに属する短編集『太陽系辺境空域』表題作で同じくシェイファーが活躍する「太陽系辺境空域」でもヒューゴー賞を受賞している。どちらもミステリ要素のある冒険SF、といったところか。
 <ノウンスペース>シリーズは地球を中心とする近未来から宇宙を航行する遠未来までの「未来史」を描く物語群。パペッティア人やクジン人などの異星人の描写も印象的。時系列的には初期にあたる「臓器故買犯(オーガンレッガー)」が横行する時代の『不完全な死体』『パッチワーク・ガール』は「想像の腕」という能力を持つ警官が主人公のSFミステリ。この臓器移植の問題は『地球からの贈り物』に出てくる技術で最終的に解決する。現実の臓器移植問題はiPS細胞といったやや別方向に行っているけど、早く同様に解決へ向かって欲しいものだ。ヒューゴー賞・ネビュラ賞の両賞を受賞した『リングワールド』はシリーズの集大成とも言うべき大作。「リング」という星を取り巻く壮大な人工物が圧倒的なスケールを感じさせ、のち続編も3作書かれた。なおこの『リングワールド』の主人公ルイス・ウーはベーオウルフ・シェイファーの義理の息子。
 ニーヴンのSF作品は科学知識や技術面をきちんとおさえているハードSFだが、魅力的なアイディアやキャラクターがいろいろ出てきて大変楽しんで読める。他に、『魔法の国が消えていく』などの、魔法は「マナ」という天然資源によるというファンタジーのシリーズがあり、同じ世界設定での複数の作家による作品もある。この『魔法の国が消えていく』と<ノウンスペース>シリーズの『パッチワーク・ガール』は、日本ではヴィジュアル・ノヴェル「イラストレイテッドSF」の1冊として原書の挿絵付きで出版された。ノンシリーズ作品も含む短編集『無常の月』収録の中では、ノンフィクション「スーパーマンの子孫存続に関する考察」がおもしろかった。ジェリー・パーネルらとの共作も多い。

<ノウンスペース>シリーズ
 『太陽系辺境空域』(1979)ハヤカワ文庫SF 小隅黎訳 : '85/B
   Tales of Known Space(1975)
 『不完全な死体』(1984)創元推理文庫 冬川亘訳 : '85/B
   The Long ARM of Gil Hamilton(1976)
 『パッチワーク・ガール』(1981)東京創元社 冬川亘訳 : '85/B
   The Patchwork Girl(1978)
 『プタヴの世界』(1983)ハヤカワ文庫SF 小隅黎訳 : '85/B
   World of Ptavvs(1966)
 『プロテクター』(1979)ハヤカワ文庫SF 中上守訳 : '85/B
   Protector(1973)
 『地球からの贈り物』(1979)ハヤカワ文庫SF 小隅黎訳 : '85/B
   A Gift from Earth(1968)
 『リングワールド』(1978)早川書房 小隅黎訳 : '85/A
   Ringworld(1970)
 『リングワールドふたたび』(1981)早川書房 小隅黎訳 : '85/B
   The Ringworld Engineers(1980)
<その他の作品>
 『無常の月』(1979)ハヤカワ文庫SF 小隅黎他訳 : '85/B
   All the Myriad Ways(1971)

(2021.2.21記)
ビーグル,ピーター・S. Beagle, Peter Soyer (1939~ *米)
『最後のユニコーン』(1979)ハヤカワ文庫FT 鏡明訳 : '84/C
   The Last Unicorn(1968)
 世界最後のユニコーンが、落ちこぼれ魔術師らとともに姿を消してしまった仲間を探し求めるという物語で、創作民話といった趣の話。日本では公開されていないが、1981年にはビーグル自身が脚本を手がけ、スタジオジブリの前身トップクラフトが制作したアニメ映画も作られた。アニメは機会があって観ることができたが、キャラクターの顔など気になるところもなくはないが、全体的にはなかなかの出来だったと思う。ラストの波打ち際でのユニコーンと赤い牡牛の対決シーンをはじめ、原作・アニメとも美しいイメージが印象的。2005年、37年ぶりに書かれた続編「ふたつの心臓」がヒューゴー賞・ネビュラ賞の両賞を受賞し、最終章として収録した完全版が刊行された(邦訳もあり)。
 ビーグルは寡作な作家だが、玄人受けのする作家という感じ。『心地よく秘密めいたところ』『風のガリアード』などの長編のほか、短編やノンフィクションの著作があり、脚本家としても活動していた。2011年に世界幻想文学大賞の生涯功労賞を受賞した。
(2021.2.28記)
ロバーツ,キース Roberts, Keith (1935~2000*英)
『パヴァーヌ』(1987)サンリオSF文庫 越智道雄訳 : '87/B
   Pavane(1968)
 科学技術の発達が抑圧されているイギリスが舞台のIFの世界もの。モールス電信も電話もなく、腕木信号とかで通信する世界で、それが重要なアイテムとして使われる。物語は地味な感じだが、そのレトロな雰囲気と相まって不思議な魅力がある作品。タイトルと、サンリオSF文庫版は表紙も綺麗だった。サンリオSF文庫廃刊2か月前に、新しい著者の作品としては最後に刊行されたもの。長らく稀少本になっていて、扶桑社、その後ちくま文庫で再刊されたが、その筋に人気があるのか、いまだにサンリオSF文庫版の古書価はそこそこする。訳は同じだが、後の版では章の順番が時系列順から原書と同じになったとのこと。
 ロバーツはイラストレーター・編集者としても活動し、英国SF協会賞を長編部門・短編部門(2回)・アート部門で受賞している。
(2021.5.22記)
ル=グウィン(ル・グィン),アーシュラ・K. Le Guin, Ursula Kroeber (1929~2018*米)
『闇の左手』(1977)ハヤカワ文庫SF 小尾芙佐訳 : '80/A
   The Left Hand of Darkness(1969)
 両性具有者の惑星に、地球人が宇宙連合の使節として訪れ…という物語。<ハイニッシュ・サイクル>と言われる共通の背景を持った未来史の一作で、宇宙各地にヒューマノイドの異星人がいるのは、かつてハイン人という同一の種族に植民された結果だとしているもの(地球もその一つ)。失われたつながりを再び求めに来るという話だが、この惑星ゲセンの住民は遺伝学的な実験の結果両性具有になっているという設定で、その特異な風俗の描写や、追放された人物との過酷な自然の中での逃避行、主人公二人の人間関係が読みごたえがある。この作家のSFなら、やはりヒューゴー賞・ネビュラ賞を受賞したこの作品だろう。
 <ハイニッシュ・サイクル>に属する話としては、初期の作品『ロカノンの世界』『辺境の惑星』『幻影の都市』の3作はまだまだ若書きっぽさが残っているが、それがかえってみずみずしく物語が元気でいい。「SFファンタジー」といった趣があることもあって、実は割と好きだったりする。サンリオSF文庫版の竹宮惠子の表紙絵はちょっと引っかかるけど…。『闇の左手』同様ヒューゴー賞・ネビュラ賞を受賞した『所有せざる人々』は、この未来史の時系列では初めの方にあたる、超光速通信機アンシブル開発にまつわるアナーキスト惑星での物語で、思想面など作品としての完成度は高いかもしれないが、ちょっと「潤い」がなくなってきた感じがして自分的には「大好き」とは言い難い。この未来史に属する中編「世界の合言葉は森」と、SFだがノンシリーズの中編「アオサギの眼」は当初別々のアンソロジーに収録された形で訳されていたが、のち合わせて1冊になった。
 この作家のファンタジー作品なら<ゲド戦記>だが、初読の頃は「影と一体になって完全となる」という意味がよくわからなかったりした。それでも3作目までは大変おもしろく読んだ、自分の中のファンタジー作品ベスト3の一つ。長く間をあけてから書かれた4作目以降にはいろいろ思うところはあるが(女性や障害者の問題の使い方とか、ラストはああいう解決方法でいいのか!?とか)、魔法使いのありよう、竜と人間の関係など、ファンタジーとして新たに興味深く読める部分もふえた。映像化にはあまり恵まれず、アメリカで実写テレビ版、日本ではアニメ映画版が制作されたが、どちらも出来は芳しくない。
 ノンシリーズのSF『天のろくろ』は夢で世界を改変してしまうという能力をもつ男を巡る話で、アメリカでは2回テレビ化がされたようだが、日本での知名度はいま一つか。連作短編集『オルシニア国物語』は架空の東ヨーロッパの国のやや暗い歴史小説で(ファンタジーやSFではない)、長編『マラフレナ』と舞台を同じくする。この作家としては異色の「普通の青春小説」である『ふたり物語』は、初訳版はヤングアダルト向け文庫での翻訳で、ビーチにたたずむカップルの後ろ姿の写真という、とてもこの作家の作品とは思えない表紙だった。のち原題の直訳に近い『どこからも彼方にある国』というタイトルで新訳・再刊された。『始まりの場所』は現実とリンクしているタイプのファンタジーだが印象が薄い。翼のある猫が出てくる<空飛び猫>シリーズは軽めの日常系ファンタジーながらいろいろ考えさせるところもあるが、何よりもシンドラーのイラストがかわいい。<西のはての年代記>は、<ゲド戦記>のアースシーとはまた別の世界を舞台としたファンタジーで、「自分探し」をする若者たちの物語。ありがちな展開かもしれないが、安心して読める。
 短編集『風の十二方位』には、<ゲド戦記>に連なる作品として「解放の呪文」「名前の掟」、<ハイニッシュ・サイクル>の作品では『ロカノンの世界』の前日譚「セムリの首飾り」、『闇の左手』の舞台での「冬の王」、『所有せざる人々』に出てくる思想の元となった「革命前夜」ほか、シリーズ外の作品では、クローンの問題を扱ったSF「九つのいのち」、とあるユートピア世界の秘密を抉る「オメラスから歩み去る人々」などを収録。作家自身による「まえがき」と各作品についての詳細な「序」つき。その後の短編集『コンパス・ローズ』『内海の漁師』には個別の作品解説はないが、全体解説にあたる「序文」「はじめに」はあり。
 評論集『夜の言葉』は、ファンタジー論「アメリカ人はなぜ竜がこわいか」や、トールキンの『指輪物語』について語った「みつめる眼」がおもしろかった。私が読んだのはサンリオ版だが、再刊の岩波書店版は原書の改訂版(1989)に基づき訳も改訂されているとのこと。
 姓の表記は、早川書房他では「ル・グィン」、サンリオでは「ル=グイン」だが、最近は岩波書店・河出書房新社他で使われている「ル=グウィン」が多くなったか。綴り・発音的には早川の表記の方が妥当そうだが。
 人類学者と作家の両親のもとに生まれた。パイプを喫う強面の女性という風情で、「SF界の女王」「西の善き魔女」などと呼ばれた。

<ハイニッシュ・サイクル>
 『ロカノンの世界』(1980)サンリオSF文庫 青木由紀子訳 : '81/B
   Rocannon's World(1966)
 『辺境の惑星』(1978)サンリオSF文庫 脇明子訳 : '81/B
   Planet of Exile(1966)
 『幻影の都市』(1981)サンリオSF文庫 山田和子訳 : '81/B
   City of Illusions(1967)
 『所有せざる人々』(1980)早川書房 佐藤高子訳 : '81/B
   The Dispossessed(1974)
 「世界の合言葉は森」小尾芙佐訳 (『世界SF大賞傑作選7』(1979)講談社文庫) : '81/B
   The Word for World is Forest(1972)
 『言の葉の樹』(2002)ハヤカワ文庫SF 小尾芙佐訳
   The Telling(2000)
<ゲド戦記> 岩波書店 清水真砂子訳
 『影との戦い』(1976) A Wizard of Earthsea(1968) : '80以前/A
 『こわれた腕環』(1976) The Tombs of Atuan(1971) : '80以前/A
 『さいはての島へ』(1977) The Farthest Shore(1972) : '80以前/A
 『帰還』(1993) Tehanu(1990) : '93/C
 『アースシーの風』(2003) The Other Wind(2001) : '05/B
 『ゲド戦記外伝』(2004) Tales from Earthsea(2001) : '05/B
<西のはての年代記> 河出書房新社 谷垣暁美訳
 『ギフト』(2006) Gifts(2004) : '10/B
 『ヴォイス』(2007) Voices(2006) : '10/B
 『パワー』(2008) Powers(2007) : '10/B
<空飛び猫> 講談社 村上春樹訳 S.D.シンドラー絵
 『空飛び猫』(1993) Catwings(1988) : '93/B
 『帰ってきた空飛び猫』(1993) Catwings Return(1989) : '95/B
 『素晴らしいアレキサンダーと、空飛び猫たち』(1997) Wonderful Alexander and the Catwings(1994):'99/B
 『空を駆けるジェーン』(2001) Jane on Her Own(1999) : '02/B
<短編集>
 『風の十二方位』(1980)ハヤカワ文庫SF 小尾芙佐他訳 : '80/B
   The Winds Twelve Quarters(1975)
 『コンパス・ローズ』(1983)サンリオSF文庫 越智道雄訳 : '84/B
   The Compas Rose(1982)
 『内海の漁師』(1997)ハヤカワ文庫SF 小尾芙佐,佐藤高子訳 : '97/B
   A Fisherman of the Inland Sea(1994)
<その他の作品>
 『天のろくろ』(1979)サンリオSF文庫 脇明子訳 : '81/C
   The Lathe of Heaven(1971) : '81/B
 「アオサギの眼」小池美佐子訳 (『女の千年王国』(1980)サンリオSF文庫) : '81/C
   The Eye of the Heron(1978)
 『オルシニア国物語』(1979)早川書房 峯岸久訳 : '81/C
   Orsinian Tales(1976)
 『マラフレナ』上・下(1983)サンリオSF文庫 友枝康子訳
   Malafrena(1979)
 『始まりの場所』(1984)早川書房 小尾芙佐訳 : '85/C
   The Beginning Place(1980)
 『ふたり物語』(1983)集英社文庫コバルトY.A.シリーズ 杉崎和子訳 : '83/C
   Very Far Away from Anywhere Else(1976)
 『いちばん美しいクモの巣』(2001)みすず書房 長田弘訳 ジェイムズ・ブランスマン絵 : '02/C
   Leese Webster(1979)
 『夜の言葉』(1985)サンリオSF文庫 山田和子他訳 : '85/B
   The Language of the Nigh(1979) : '81/B

→作家やその他の作品については「私的 児童文学作家事典〔海外編〕」「ル=グウィン(ル=グィン),アーシュラ・K.」も参照のこと。

(2021.6.3記)
シルヴァーバーグ,ロバート Silverberg, Robert (1935~ *米)
『夜の翼』(1971)ハヤカワSFシリーズ 佐藤高子訳 : '85/B
   Nightwings(1969)
 異星からの侵略におびえる衰退した地球で、体の変形を含めた様々な職業「ギルド」に属する人々の世界を描くSF。〈翔人〉のイメージが美しい、幻想的というか退廃的な雰囲気の漂う物語。原型となった中編でヒューゴー賞を受賞、その後書かれた第二部・第三部と合わせて長編化された。
 10代のころから作家活動を始め、多くのペンネームを用いてSF作品やノンフィクション他を多数執筆していた。1960年代以降は力作を発表するとともに、『ミュータント傑作選』『SFの殿堂 遥かなる地平』『ファンタジイの殿堂 伝説は永遠に』などのアンソロジーの編集もつとめた。1970年代のなかばにSF執筆引退宣言を出したがのちに復帰、大作<マジプール>三部作を刊行。人類が植民した惑星での出来事というSFの設定を取っているが、実態はほぼ異世界ファンタジー。様々な種族が入り乱れ、多彩な土地を舞台にした、スケールの大きな冒険活劇が繰り広げられるエンターテインメント小説と言える。三部作となっているが、2作目は外伝的な短編集で、実質は二部作かな。1990年代にはアシモフの短編「夜来たる」や「バイセンテニアル・マン」の長編化(後者のタイトルは『アンドリューNDR114』)も手がけた。

<マジプール> ハヤカワ文庫SF
 『ヴァレンタイン卿の城』上・下(1985) 佐藤高子訳 : '87/B
   Lord Valentine's Castle(1980)
 『マジプール年代記』(1986) 森下弓子訳 : '87/B
   Majipoor Chronicles(1982)
 『<教皇>ヴァレンタイン』上・下(1987) 森下弓子訳 : '87/B
   Valentine Pontifex(1983)

(2021.6.6記)
ウィルソン,コリン Wilson, Colin (1931~2013*英)
『賢者の石』(1971)創元推理文庫 中村保男訳 : '84/D
   The Philosopher's Stone(1969)
 不老長寿を求めた青年が研究の果てに得た能力、知ったこととは…。技術的な部分はSFと言えるのだろうけど、ラヴクラフトらのクトゥルフ神話とリンクするところもあって怪奇・幻想小説寄りの話で、あまり好きじゃなかったと思う。よく覚えていないのだけど、なんか小難しかった気がするし。
 同時代の著名人を「社会秩序の内にあることを拒否する者」として論じた『アウトサイダー』の著者として有名。著書には、文芸評論・哲学・犯罪心理学・オカルト研究等のほか、クトゥルフ神話に連なる『精神寄生体』、巨大化した昆虫に支配された未来の地球での冒険物語<スパイダー・ワールド>シリーズなどの小説作品もある。トールキンを高く評価していたが、シェイクスピアは嫌いだったとか。
(2021.6.8記)

1970年代

ゼラズニイ,ロジャー Zelazny, Roger (1937~1995*米)
『アンバーの九王子』(1978)ハヤカワ文庫SF 岡部宏之訳 : '83/A
   Nine Princes in Amber(1970)
 真世界「アンバー」と、その「影」である多くのパラレル・ワールド(地球を含む)が存在するという設定の<真世界シリーズ>の第1作。真世界の王位争奪戦という波乱万丈な冒険物語。火薬の使えない設定のファンタジー世界「アンバー」で銃を作る工夫をするといったSF風味もある。タロットカードのような「トランプ」や迷路のような「パターン」、各キャラクターにシンボルカラーがあるなど、イメージも美しく多彩でかなり好きな作品だった。日本での刊行は第一部の5作目までで、第二部の長編5作・短編集は未翻訳。ビジュアル的にも派手な人たちの話だし、各種神話・伝説や歴史上の人物や出来事を多く使っており、その手の小説やゲームの流行っている現在なら人気が出ると思うのだが、出版社さん、再刊・続編翻訳はいかがか?
 ともにヒューゴー賞を受賞している処女長編『わが名はコンラッド』と『光の王』はそれぞれギリシャ神話・インド神話、短編集『伝道の書に捧げる薔薇』『キャメロット最後の守護者』では表題作がそれぞれ聖書・アーサー王伝説と、他でも神話や伝承などを物語作りに使っている。
 アメリカでのニューウェーヴの代表的な作家の一人とされているが、イギリスのニューウェーヴの作家の作品よりわかりにくくはなかったような。題材が華やかでストーリーもメリハリがあって好きな作家だったが、58歳という年齢で亡くなったのは残念。

<真世界シリーズ> ハヤカワ文庫SF 岡部宏之訳
 『アヴァロンの銃』(1980) The Guns of Avalon(1972) : '83/A
 『ユニコーンの徴(しるし)』(1980) Sign of the Unicorn(1975) : '83/A
 『オベロンの手』(1981) The Hand of Oberon(1976) : '83/A
 『混沌の宮殿』(1981) The Courts of Chaos(1978) : '83/A
<その他の作品>
 『わが名はコンラッド』(1975)ハヤカワ文庫SF 小尾芙佐訳 : '83/B
   This Immortal(1966)
 『光の王』(1978)早川書房 深町真理子訳 : '85/B
   Lord of Light(1967)
 『伝道の書に捧げる薔薇』(1976)ハヤカワ文庫SF 浅倉久志,峯岸久訳 : '84/B
   The Doors of His Face, the Lamps of His Mouth(1971)
 『キャメロット最後の守護者』(1984)ハヤカワ文庫SF 浅倉久志他訳 : '92/B
   The Last Defender of Camelot(1980)

(2021.6.27記)
アンダースン,ポール Anderson, Poul (1926~2001*米)
『タウ・ゼロ』(1992)創元SF文庫 浅倉久志訳 : '92/B
   Tau Zero(1970)
 故障で止められなくなった宇宙船に、それならいっそとばかりに宇宙が収縮して再びビッグバンによって復活するまでを乗り切ってしまえという、そんなことってあり!?という感じの壮大なホラ話のようなSF。ハードSFとのことだが相対性理論とかビッグバン理論とか脈動宇宙論とかの物理法則にどの程度のっとっているのかは私にはわからないのだけど、とにかく力技で読ませる物語。おもしろかったよ。
 アンダースンは北欧系のルーツを持ち、北欧神話・ケルト神話風ファンタジーの作品もある。『折れた魔剣』は取り換え子の悲劇の物語。時間テーマSFの連作『タイム・パトロール』はこの手の作品の古典だが、タイム・パトロールがあんまり格好良くなかったような。ファーストコンタクトものだが人間たちの政争が絡む『アーヴァタール』は作品紹介に作者の「最高最大の傑作」とあるけど、この話を含め、この後に訳出された『タウ・ゼロ』以外、東京創元社では絶版になってしまったようだ。「アーヴァタール」って「アバター」のことだったか。ところで「訳者あとがき」が上巻に入っているのはなんでかな?
 他に、ゴードン・R.ディクスンとの合作<ホーカ・シリーズ>などがある。

<その他の作品>
 『折れた魔剣』(1974)ハヤカワ文庫SF 関口幸男訳 : '84/ C
   The Broken Sword(1954)
 『アーヴァタール』上・下(1981)創元推理文庫 小隅黎訳 : '87/ C
   The Avatar(1978)
 「タイム・パトロール」深町真理子訳 (『世界SF全集 21』(1971)早川書房) : '87/C
   Guardians of Time(1960)

(2021.8.7記)
ネヴィル,クリス Neville, Kris (1925~1980*米)
『ベティアンよ帰れ』(1972)ハヤカワ文庫SF 矢野徹訳 : '80以前/C
   Bettyann(1970)
 異星人テーマSFの古典的作品か。多分最初は児童向けのSFアンソロジー収録の短編版を読んだんじゃないかな。今出てる長編版は物語の厚みを増すためか最初から異星人パートでネタを割っているようだが、こういうネタは何も知らない主人公=読者で話を進めた方が効果的では…。ラストシーン、慣れない姿で危なっかし気に飛んでいて悲劇的結末を匂わせていた気がしていたが、今長編版を見たら「大きな鳥が力強い両の翼を」となっていてそんなことはなかったかも。ただ主人公が選んだ結果が「幸せ」になれるとは限らないかもしれないけれど。「異星人が地球人の姿になっている(憑依している、姿そのものを変えている)」というのは、古くは東芝キャラの特撮ドラマ「光速エスパー」、その後では渡辺多恵子の漫画「ジョセフへの追想」までいろいろあるが、この作品がこれらの元ネタの一つかも。
(2021.8.8記)
カーツ,キャサリン Kurtz, Katherine (1944~ *米)
『獅子王の宝冠』(1992)ハヤカワ文庫FT 岩原明子訳 : '96/B
   Deryni Rising(1970)
 「デリニ・シリーズ」として知られていた三部作の第1作。日本では<グウィネド王国年代記>というシリーズ名で翻訳された。デリニという魔力を持つ種族が存在するケルト風を思わせる異世界での、王国の勢力争いを描いたファンタジー。カーツ自身の処女作でもあり、その後に多くの続編や関連作品が書かれた。トールキン以後のファンタジー・ブームの火つけ役となった人気シリーズとあるが、邦訳はずいぶん遅くなった。ル=グウィンがエッセイで文体がファンタジーにふさわしくないと酷評しているが、そんなに気にならなかったような。1970年代初頭ではまだ珍しかった異世界ファンタジーだっただろうが、昨今多く出るようになったファンタジー小説に紛れて、及第点ではあるもののあんまり印象に残っていない「よくあるファンタジー」の一つになってしまったかな。シリーズの続編他は翻訳されていない。

<グウィネド王国年代記> ハヤカワ文庫FT 岩原明子訳
 『反逆者の影』(1993) Deryni Checkmate(1972) : '96/B
 『炎の玉座』(1993) High Deryni(1973) : '96/B

(2021.8.14記)
エングダール,シルヴィア・L. Engdahl, Sylvia Louise (1933~ *米)
『異星から来た妖精』(1981)ハヤカワ文庫FT 渡辺南都子訳 : '83/C
   Enchantress from the Stars(1970)
 ファンタジーのFT文庫から出たが、れっきとしたSF。異星から来た者は、現地の者からは妖精のように見えるという物語。最初からネタが割ってあるので読者には混乱がないが、こういう話はそれがわからないようにして最後に驚かせるように書いた方がおもしろくないかなあ、などとちょっと思った。漫画や映画などではできないが文章なら…。それならFT文庫で出すのもおもしろいと。日本版では天野嘉孝の表紙絵とともに、イメージは割と美しくて良かったと思う。ニューベリー賞次点になったとのこと、アメリカでは児童文学作品として出版されたようだ。
(2021.8.15記)
ファーマー,フィリップ・ホセ Farmer, Philip José (1918~2009*米)
『果しなき河よ 我を誘え』(1978)ハヤカワ文庫SF 岡部宏之訳 : '85/B
   To Your Scattered Bodies Go(1971)
 ネアンデルタール人から21世紀人まで、地球で死んだ人間が善人も悪人も著名人も一般人もすべて復活しているという世界、<リバーワールド>を舞台とした物語の第1作。リチャード・バートンやマーク・トウェインなどの実在の人物をメインキャラにすえ、ジョン王やゲーリング、ネアンデルタール人や21世紀に地球に来た異星人などをまじえて、それぞれの思惑を込め、飛行船を飛ばしたり巨大な河を外輪船で遡ったりしながらこの世界の謎に迫るスケールの大きな冒険物語。この第1作でヒューゴー賞を受賞。
 地球人と異星人との性の問題を扱って注目された『恋人たち』は、最初に発表された中編版で1953年にヒューゴー賞を受賞したが、今から見るとそれほど大胆でもない感じ。のち長編化された。
 他に、地球の過去の歴史や伝説の世界が階層上に作られた異世界での冒険を描く<階層宇宙>シリーズ、人口過密のため人は1週間に1日しか活動できないと定められた世界での事件を描く『デイワールド』、カート・ヴォネガットの小説に登場する架空の小説家キルゴア・トラウト名義で出した宇宙冒険もの『貝殻の上のヴィーナス』などの作品がある。

<リバーワールド> ハヤカワ文庫SF 岡部宏之訳
 『わが夢のリバーボート』(1979) The Fabulous Riverboat(1971) : '85/B
 『飛翔せよ、遥かなる空へ』上・下(1983) The Dark Design(1979) : '85/B
 『魔法の迷宮』上・下(1985) The Magic Labyrinth(1980) : '89/B
<その他の作品>
 『デイワールド』(1987)ハヤカワ文庫SF 大西憲訳 : '94/C
   Dayworld(1985)
 「恋人たち」伊藤典夫訳 (『世界SF全集 21』(1971)早川書房) : '88/C
   The Lovers(1961)

(2021.8.16記)
バラード,J.G. Ballard, James Graham (1930~2009*英)
『ヴァーミリオン・サンズ』(1980)早川書房 浅倉久志他訳 : '84/B
   Vermillion Sands(1971)
 砂漠のリゾート地「ヴァーミリオン・サンズ」を舞台とした連作集。収録作「プリマ・ベラドンナ」は作者のデビュー短編。退廃的な雰囲気が満ちているが、雲の彫刻とか歌う草花とか朱色の砂の砂漠とか、イメージの美しい作品集だったと思う。「希望の海、復讐の帆」「ステラヴィスタの千の夢」などの各短編のタイトルも格好いい。表紙絵は文庫版より海外SFノヴェルズで出たハードカバー版の方が好みだな。
 『結晶世界』は「破滅三部作」と言われる「~世界」と題された作品の一つ(日本ではもう一つ『~世界』という訳題の本があるが)。世界が結晶化するという、無気味ながら美しいイメージに期待して読んだのだが、自分的には今一つだったような。日本の星雲賞の第1回受賞作品。
 イギリスのニューウェーヴSFの代表的な作家の一人とされ「SFは外宇宙より内宇宙をめざすべき」という意味の主張をしたり、「濃縮小説」という断片的な文章を集めた作品集を発表するなど、ちょっと小難しいのでは?という印象も。中国の上海で生まれて少年時代を過ごすが、第二次世界大戦開戦後に日本軍の捕虜収容所にいたことがあり、このときの体験をもとに小説『太陽の帝国』を書いている。

<その他の作品>
 『結晶世界』(1969)創元推理文庫 中村保男訳 : '84/C
   The Crystal World(1966)

(2021.9.10記)
ディレーニ(ディレイニー),サミュエル・R. Delany, Samuel Ray (1942~ *米)
『時は準宝石の螺旋のように』(1979)サンリオSF文庫 伊藤典夫,浅倉久志他訳 : '87/B
   Driftglass(1971)
 タイトルが格好いい。「宝石」がある人々の間での「合言葉」のように使われる、「シンガー」という特殊能力者?が出てくる、というような断片的なことしか覚えていないが、他の収録作ともイメージが美しく趣味に合った好きな作品集。表題作はヒューゴー賞・ネビュラ賞のダブル受賞作で、講談社文庫の『世界SF大賞傑作選4』でも読んでいた。原書の表題作になっている「流れガラス」もネビュラ賞を受賞している。サンリオSF文庫で刊行され、長く再刊されていなかったが、2014年にこの短編集を含む全中短編を収録した日本オリジナル作品集『ドリフトグラス』が国書刊行会から刊行された。ところで表題作に出てくる「シンガー」というのは、このころの日本の複数のSFファンタジー系少女漫画に使われていなかったか? これ以外に何か元ネタがあっただろうか。
 ネビュラ賞を受賞した『バベル-17』は、詩人が言葉の専門家としてインベーダーの謎の通信の解読に取り組むという「言語」SF。ラストがちょっとわかりにくかったような。文庫版の表紙、中央の主人公の女性はいいとして、両脇の航宙士たちのムキムキの腕が気になるよな。
 他に、上記『ドリフトグラス』にも新訳が収録された『エンパイア・スター』、大作『ダールグレン』などの作品がある。きらびやかな凝った文体という印象で、人気投票のヒューゴー賞より作家・評論家などによるネビュラ賞の受賞が多い気がするのは「通好み」の作家ということか。姓の表記、サンリオは「ディレーニ」で、早川書房は以前は「ディレーニイ」だったけど、のちに「ディレイニー」に落ち着いた。

<その他の作品>
 『バベル-17』(1977)ハヤカワ文庫SF 岡部宏之訳 : '88/C
   Babel-17(1966)

(2021.9.12記)
ムアコック,マイクル Moorcock, Michael (1939~ *英)
『メルニボネの皇子』(1984)ハヤカワ文庫SF 安田均訳 : '20/C
   Elric of Melnfboné(1972)
 ヒロイック・ファンタジー<エルリック・サーガ>の1巻目。1960年代から短編が発表されていたが、再編集されて1巻目に置かれた、時系列的には最初の話となる長編。妖しい雰囲気の漂う、退廃的で耽美な物語。悲劇的な話と聞いていたが、この1巻目ではその気配はあるものの決定的な事柄はまだ。日本では長らく名のみ高かったが、なかなか全貌がわからなかったシリーズだったような。その日本版は天野喜孝の表紙・挿絵も美しかったが、2006年に巻構成・訳者・表紙絵を含め再編された新版が刊行された。この機に文庫レーベルをSFからFTに移動するのかと思ったが違ったようだ。ところで1巻のタイトルが新版でも「皇子」なんだけど、この1巻の時点でエルリックはすでに王または皇帝のはずだが、タイトルの雰囲気?
 ムアコックは他にも<ルーンの杖秘録><紅衣の公子コルム>などのヒロイック・ファンタジーのシリーズをいくつも書いているが、<エレコーゼ・サーガ>でエルリックを含めた主人公たちは皆「エターナル・チャンピオン」と呼ばれる存在の化身であるという設定を作っている。
 イギリスのSF雑誌「ニュー・ワールズ」の編集長としてニューウェーヴ運動の中心的存在となった。『グローリアーナ』で世界幻想文学大賞を受賞。他に、中編版がネビュラ賞を受賞した、キリストの死を扱った時間SF『この人を見よ』などの作品がある。

<エルリック・サーガ> ハヤカワ文庫SF 井辻朱美訳
 『この世の彼方の海』(1984) The Sailor on the Seas of Fate(1976)
 『白き狼の宿命』(1985) The Weird of the White Wolf(1977)
 『暁の女王マイシェラ』(1985) The Vanishing Tower(1977)
 『黒き剣の呪い』(1985) The Bane of the Black Sword(1977)
 『ストームブリンガー』(1985) Stormbringer(1977)
 『真珠の砦』(1990) The Fortress of the Pearl(1989)
 『薔薇の復讐』(1994) The Revenge of the Rose(1991)
<その他の作品>
 『この人を見よ』(1981)ハヤカワ文庫SF 峯岸久訳 : '85/C
   Behold the Man(1969)

(2021.9.14記)
ショウ,ボブ Shaw, Bob (1931~1996*英)
『去りにし日々、今ひとたびの幻』(1981)サンリオSF文庫 蒼馬一彰訳 : '89/B
   Other Days, Other Eyes(1972)
 光が透過するのに長い時間がかかる「スローガラス」というアイテムが出てくる短編「去りにし日々の光」をはじめ、同じアイテムの出てくる短編を集めたオムニバス連作集。リゾート地の美しい風景を見ることから軍事利用やスパイ行為までさまざまなことに使われるスローガラスは、書き手の工夫によってさまざまなストーリーの可能性がある魅力的なアイテムである。他の作家にも使われているようだ。
 ボブ・ショウはSFファンから作家になり多くの作品を書いているが、短編「去りにし日々の光」は各種アンソロジーに何度も収録されているものの、この作品集を含め日本ではサンリオSF文庫で5冊訳されたほかは刊行がなく、再刊もされていない。
(2021.9.16記)
カウパー,リチャード Cowper, Richard (1926~2002*英)
『クローン』(1979)サンリオSF文庫 鈴木晶訳 : '82/B
   Clone(1972)
 クローン技術で作られた特殊能力者の巡る物語。「超人」が「旧人類」から迫害されたり対立したりする「超人」テーマは以前よく読んでいたので、この話の印象がはっきりしないが、そこそこおもしろかったかな? 「超人」のほかに、労働力として改造された猿のいる未来社会を風刺的に描く。
 『大洪水伝説』に始まる<キン族の白い鳥>三部作が代表作だそうだが、2作目と3作目は翻訳されていない。コリン・マリーというペンネームで普通小説も書いていた。本名をジョン・ミドルトン・マリーというが、同名の父親は批評家として有名とのこと。
(2021.9.18記)
ステイブルフォード,ブライアン Stableford, Brian (1948~ *英)
『ハルシオン・ローレライ』(1980)サンリオSF文庫 島岡潤平訳 : '87/C
   Halcyon Drift(1972)
 <宇宙飛行士グレンジャーの冒険>というスペースオペラの第1作。「ハルシオン」は現在では睡眠薬の名前として知られているがギリシア神話に出てくる女性の名前を英語化したもので、タイトルとして響きが格好良かったために読んだ気がする。後半3冊は作家の菊地秀行が訳すなどシリーズ6作全作が訳されたが、評判はあまり芳しくなかったようだ。サンリオSF文庫で出たシリーズ物はほとんど再刊されていないがこれも駄目。
 他に<タルタロスの世界>などの作品があるが、今はどれも絶版・品切のようだ。

<宇宙飛行士グレンジャーの冒険> サンリオSF文庫
 『ラプソディ・イン・ブラック』(1980) 島岡潤平訳 Rhapsody in Black(1973)
 『プロミスト・ランド』(1981) 島岡潤平訳 Promised Land(1974)
 『パラダイス・ゲーム』(1982) 菊地秀行訳 The Paradise Game(1974)
 『フェンリス・デストロイヤー』(1982) 菊地秀行訳 The Fenris Device(1974)
 『スワン・ソング』(1982) 菊地秀行訳 Swan Song(1975)

(2021.9.20記)
ベンフォード,グレゴリイ Benford, Gregory (1941~ *米)
『夜の大海の中で』(1986)ハヤカワ文庫SF 山高昭訳 : '21/C
   In the Ocean of Night(1977)
 地球外の存在とのファーストコンタクトもののハードSF。有機生命体と機械生命体との長きにわたる戦闘が繰り広げられることになる<銀河の中心>六部作の第1作となった。1972年から断続的に発表された中編をまとめて長編としたものだが、「近未来」であった物語の時代、「1999年」から「2019年」までがすでに「過去」になってしまったなあ。それほど古臭さや齟齬は感じなかったが。作者が少年時代に日本に滞在していたことがあるためか、日本人の登場人物がいたり日本についての言及があったりするが、この「近未来」では核戦争か何かで日本は荒廃してしまっている模様。「公害」という言葉も出てくるが放射能症とかのことだろうか。怪しげな新興宗教とか、頭の固い官僚機構とか、アメリカが未知のものにすぐ核をはじめとする攻撃をかけようとするところとかへの皮肉もある。この話ではまだ「ファーストコンタクト」程度で「スナーク」は割と「話せる」感じだが、今後は人類にとってかなり厳しい展開になるとか。主人公は結構いい感じだけど、最後ちょっとよくわからない状態になってたかな。
 他に、ネビュラ賞を受賞した『タイムスケープ』、ゴードン・エクランド、デイヴィッド・ブリン、ウィリアム・ロツラー、アーサー・C.クラークらとの合作のほか、アシモフの<銀河帝国興亡史>シリーズの外伝にあたる<新・銀河帝国興亡史>の1作目を執筆した。

<銀河の中心>シリーズ ハヤカワ文庫SF
 『星々の海をこえて』(1986) 山高昭訳 Across the Sea of Suns(1984)
 『大いなる天上の河』上・下(1989) 山高昭訳 Great Sky River(1987)
 『光の潮流』上・下(1990) 山高昭訳 Tides of Light(1989)
 『荒れ狂う深淵』(1995) 冬川亘訳 Furious Gulf(1994)
 『輝く永遠への航海』上・下(1997) 冬川亘訳 Sailing Bright Eternity(1995)

(2021.9.22記)
クラーク,アーサー・C. Clarke, Arthur Charles (1917~2008*英)
『宇宙のランデヴー』(1979)早川書房 南山宏訳 : '87/A
   Rendezvous with Rama(1973)
 太陽系に突如飛来した物体は、巨大な円筒形の異星の宇宙船だった―というSF。膨大な空間である内部に侵入して調査していくと、装置やロボットが動き出すが、意思疎通を試みられる存在はいない。ファーストコンタクトものと言えるかもしれないけど、この作品では宇宙船は飛び去り、結局ほとんど何もわからないまま物語は閉じてしまう。だがそのわからないことも含め、壮大な描写で「センス・オブ・ワンダー」!という気分に浸れるので満足できてしまうというSFの大作。ヒューゴー賞・ネビュラ賞両賞のほか英国SF作家協会賞、日本の星雲賞など各賞の受賞もうなずける。その後ジェントリー・リーとの合作で「4」まで続編が書かれたが、単独作の第1作とはかなり味わいの違った物語になっているようだ。
 『地球幼年期の終わり』は「超人」テーマものと言えるのかな。「オーバーロード」のイメージの方が強いが、キリスト教圏じゃない日本人から見ると、その姿はそんなにショックか?とも思うけど。まあ第一印象は大切だからな。慣れてからという配慮はわからんでもないが。そんな「オーバーロード」より、ちょっと理解できない存在になっちゃう「進化」した子どもたちのほうが親近感が持てず無気味に感じられたりして、作品としての評価は高いようだが自分的にはいまひとつ。
 映画のノベライズというより並行して書かれたという『2001年宇宙の旅』は、映画の補完として役立った感じ。まああの映画の後半のわけわからんところもクラークの「センス・オブ・ワンダー」に近い気もしたけど。そもそもはクラークの短編「前哨」が元だったとか。「ファーストコンタクト」や「超人」ものの要素もあるが、前半の「モノリス」の存在感やコンピューター「HAL」の反乱というので広く知られているか。映画としてはダイナミックな映像やクラシックを使った音楽も印象深い。これももう「近未来」から「過去」になってしまったなあ。パンナムもなくなってたし。のち『2010年宇宙の旅』『2061年宇宙の旅』『3001年終局への旅』と続編も3作書かれたが、評価は微妙なようだ。
 他に、『銀河帝国の崩壊』を改稿した、宇宙を目指す青年の旅路を描いた『都市と星』、「海洋SF」とも言うべき『海底牧場』、軌道エレベーターを扱った『楽園の泉』、ロンドンのパブで語られた不思議な話という体裁の連作短編集『白鹿亭綺譚』などの作品がある。
 ハインライン・アシモフとともにSF御三家の一人。豊富な科学知識を生かしたハードSFの作品を執筆したほか、科学解説者としてエッセイ等で様々な未来予測をおこなった。小説は後年は合作も多い。1956年スリランカに移住した。

<その他の作品>
 『地球幼年期の終わり』(1969)創元推理文庫 沼沢洽治訳 : '83/C
   Childhood's End(1953)
 『2001年宇宙の旅』(1977)ハヤカワ文庫SF 伊藤典夫訳 : '83/B
   2001 : A Space Odyssey(1968)
 『銀河帝国の崩壊』(1964)創元推理文庫 井上勇訳
   Agaist the Fall of Night(1953)
 『都市と星』(1977)ハヤカワ文庫SF 山高昭訳 : '92/B
   The City and the Stars(1956)
 『海底牧場』(1977)ハヤカワ文庫SF 高橋泰邦訳
   The Deep Range(1957)
 『楽園の泉』(1980)早川書房 山高昭訳
   The Fountains of Paradise(1979)
 『白鹿亭綺譚』(1980)ハヤカワ文庫SF 平井イサク訳 : '86/B
   Tales from the White Hart(1957)

(2021.10.17記)
エリスン,ハーラン Ellison, Harlan (1934~2018*米)
「死の鳥」伊藤典夫訳 (『世界SF大賞傑作選7』(1979)講談社文庫) : '81/B
   The Deathbird(1973)
 最初に読んだエリスンの短編で、ヒューゴー賞受賞作。今読み返してみると、主人公の「ネイサン・スタック」とか蛇の「ダイラ」とかの名前を妙に覚えているので、「これはテストだ。」などという形式もふくめて、イメージが格好良くて気に入ったのかな。自分がそれほど好まないはずの「終末もの」だったけど、そんなに暗い話ではないのも良かったか。しかし聖書ネタというか「神」ネタだけど、西洋的には大丈夫だったのか。
 ヒューゴー賞・ネビュラ賞を受賞した「世界の中心で愛を叫んだけもの」はなんといってもタイトルが印象的だが、日本では別のアニメの副題や小説・ドラマで似たタイトルのものがあって、そちらのほうが有名か。
 「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」もともにタイトルに特徴あるヒューゴー賞受賞作。後者はコンピューターの中に閉じ込められた人間の境遇に戦慄させられる。好きじゃないけどエリスンでいちばん強く印象に残っている作品かも。
 大部な全編書き下ろしのアンソロジー『危険なヴィジョン』は、邦訳版は1983年に「1」が出た後中絶していたが、2019年に「完全版」として3分冊で刊行された。1巻収録のエリスン自身の短編「世界の縁にたつ都市をさまよう者」は直前のロバート・ブロックの「ジュリエットのおもちゃ」の設定を引き継いでいる未来での「切り裂きジャック」ものなので、エリスンのみの短編集で読むとわかりにくいとか。
 読了がアンソロジー収録の短編5作のみで、長編または短編集1冊以上としている自分の収載基準を実は満たしていないのだが、エリスンは基本短編作家だし、載せたいし、ということで例外とした。「世界の中心で愛を叫んだけもの」と「死の鳥」はそれぞれを表題作とする短編集も出ている。後者は日本オリジナル。エリスンはなかなか「好戦的」な人物だったようで、SF大会でアシモフなどと楽しい応酬をしあっていたとのこと。

<その他の作品>
 「世界の中心で愛を叫んだけもの」浅倉久志訳 (『世界SF大賞傑作選4』(1979)講談社文庫) : '82/B
   The Beast that Shouted Love at the Heart of the World(1968)
 「「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった」伊藤典夫訳 : '88/B
   ‘Repent, Harlequin !’Said the Ticktockman(1965)
 「おれには口がない、それでもおれは叫ぶ」伊藤典夫訳 : '88/B
   I Have No Mouth, and I Must Scream(1967)
    (『世界SF大賞傑作選2』(1979)講談社文庫)
   The Word for World is Forest(1972)
 『危険なヴィジョン』1(1983)ハヤカワ文庫SF 伊藤典夫他訳 : '84/B
   Dangerous Vision #1(1967)※アンソロジー編集

(2021.10.17記)
ニーヴン,ラリイ Niven, Larry (1938~ *米)
パーネル,ジェリー Pournelle, Jerry (1933~2017*米)
『神の目の小さな塵』上・下(1978)創元推理文庫 池央耿訳: '86/B
   The Mote in God's Eye(1974)
 ハードSFのニーヴンとミリタリーSFのパーネルの合作の第1作。西暦3017年に異星人とのファーストコンタクトが起きるが、平和的に見えた「モート人」には実は秘密があり…という本筋ももちろん興味深いのだが、地球人が2008年に星間航法ができたことになっているのが何気にすごいな。冒頭に年表がついているのもおもしろいが、宇宙植民地にスパルタという所があってレオニダスという王様がいたりする。なぜか上巻巻末にある「解説」などによると、アイデア抜群のニーヴンと構成力に長けたパーネルの長所がうまく組み合わされた、ファーストコンタクトものの傑作とのこと。日本版のスタジオぬえと加藤直之のカバー絵も格好いいよね。20年近く経った1993年に続編『神の目の凱歌』が出版された。
 この二人の合作には『悪魔のハンマー』『降伏の儀式』などがあるほか、さらにスティーヴン・バーンズやマイクル・フリンを加えた3人での合作もある。
(2021.10.20記)
スミス,コードウェイナー Smith, Cordwainer (1913~1966*米)
『鼠と竜のゲーム』(1982)ハヤカワ文庫SF 伊藤典夫,浅倉久志訳 : '85/A
   The Best of Cordwainer Smith(1975)
 未来史SF、人類補完機構シリーズの1冊目となる短編集。分厚い原書の前半部分で、初版には「1」と入っていた。シリーズと言っても書かれたのは時系列順ではないので矛盾もあるし、よく覚えていないところもあるのだけど、収録されている作品が個々のタイトルも含めてなんか格好いい感じがしておもしろかった印象。どちらかというと、「スキャナーに生きがいはない」や「鼠と竜のゲーム」などの前半の宇宙での話の方が、後半の「人類の再発見」後の地上での話より好きだったかな。内容を比較的よく覚えているのは、仕掛けが印象的な「スズダル中佐の犯罪と栄光」や「ママ・ヒットンのかわゆいキットンたち」。「アルファ・ラルファ大通り」も予言機械の文句とその後に起こった事が記憶に残る。
 人類補完機構シリーズ唯一の長編『ノーストリリア』は、短編にもときどき名前の出ていた長命薬の産地「ノーストリリア」出身の少年が主人公。その後短編集『シェイヨルという名の星』『第81Q戦争』が刊行されたが、短編集は既刊3冊に未収録・未訳だった短編を含めてのち<人類補完機構全短編>3冊に再編された。原書では『鼠と竜のゲーム』の後半にあたる『シェイヨルという名の星』の翻訳がなかなか出なかったので、作品の収録されているアンソロジーを探し回ったりしちゃったよ。シリーズ外だけどシリーズに含めてもいいんじゃないかという作品が1編入ってないけど、今から読むなら「全短編」版か。「エヴァンゲリオン」の「人類補完計画」というのはこのシリーズの用語から取られているとのこと
 本名はポール・マイロン・アンソニー・ラインバーガーといい、ジョンズ・ホプキンズ大学でアジア政策論の教授、陸軍情報部の大佐を務めたという人物だったが、死の直前まで伏せられていたとか。父親が法律顧問を務めていた関係で孫文が命名したという「林白楽」という漢字名がある。猫が好きだったらしい。

<人類補完機構>
 『ノーストリリア』(1987)ハヤカワ文庫SF 浅倉久志訳 : '87/B
   Norstrilia(1975)
 『シェイヨルという名の星』(1994)ハヤカワ文庫SF 伊藤典夫訳 : '94/B
   The Best of Cordwainer Smith(1975)
 『第81Q戦争』(1997)ハヤカワ文庫SF 伊藤典夫訳 : '97/B
   The Instrumentality of Mankind(1979)

(2021.11.11記)
コーニイ,マイクル Coney, Michael (1932~2005*英)
『ハローサマー、グッドバイ』(2008)河出文庫 山岸真訳 : '21/B
   Hello Summer, Goodbye(1975)
 異星を舞台にしたとあるヒューマノイドの種族の、青春恋愛小説でもあるSF。最初は普通小説のような感じだが、「寒さ」が大敵である気候や、海の様子や折々出てくる生き物の描写などから、これが異星を舞台としたSFであることがわかる。日常パートの中に時折緊張感を持つパートが入り、物語がじりじりと進むなか、背景にあった戦争や気候変動?の危機が次第に緊迫した状勢になっていく物語。物語の展開はそれとして、ボーイミーツガールな状況は甘酸っぱく楽しい。地味な感じだったけどおもしろかった。サンリオSF文庫での帆船の表紙絵が格好良かったので、変わってしまったのは残念だが、続編を含めて刊行されたのは嬉しい。
 続編『パラークシの記憶』は、かなり後の時代の物語で、前作の主人公たちは伝説になっている。前作同様に青春恋愛小説でもあるが、今作はミステリ要素もあるだけでなく新たなSF的設定も加わり、前作でいま一つ理解できていなかったことも明らかになる。続けて読むのがおすすめ。
 他に、英国SF協会賞を受賞した『ブロントメク!』などの作品がある。ヨットが趣味だったことから、作品にはしばしば「帆のある乗り物」が出てくるんだとか。

<その他の作品>
 『パラークシの記憶』(2013)河出文庫 山岸真訳 : '21/B
   I Remember Pallahaxi(2007)

(2021.11.12記)
ウイルヘルム,ケイト Wilhelm, Kate (1928~2018*米)
『鳥の歌いまは絶え』(1982)サンリオSF文庫 酒匂真理子訳 : '87/C
   Where Late the Sweet Birds Sang(1976)
 放射能汚染の進んだ世界で、人類存続のためにクローン技術を使い…というSF。タイトルからそういう荒廃した世界での話だろうとは想像していたけれど、うーんあんまり内容覚えてないなあ。この手の設定の話もよくあったと思うし、「超人」テーマの新人類ものならよく読んでいたけど、ここに出てくるクローンはそういうものじゃなかったか? タイトルとともに青い空の色と弓をつがえる人の姿が印象的な表紙絵が格好良かったのだが、この絵、元は全然別の作品の表紙絵だったとか。綺麗な絵で好きだけど、いやそれはちょっとどうなのか。ヒューゴー賞他を受賞し、評価は高い作品。
 ケイト・ウィルヘルムは同じくSF作家の夫デーモン・ナイトとともに、クラリオン・ワークショップなどでSFやファンタジーの作家の育成に尽力した。ミステリや普通小説の作品もある。作品はサンリオSF文庫で4冊出た後しばらく翻訳が途絶えていたが、アンソロジー収録を含め少しずつ刊行されて『鳥の歌いまは絶え』も再刊された。

(2021.11.13記)
キュルヴァル,フィリップ Curval, Philippe (1929~ *仏)
『愛しき人類』(1980)サンリオSF文庫 蒲田耕二訳 : '88/D
   Cette Chère Humanité(1976)
 サンリオSF文庫の特徴の一つである、他では珍しいフランスのSFの一作。アポロ賞他複数の賞を取っていることと、表紙絵の青の色とデザインが気に入ったので読んでみたのだが、そりが合わなかったらしく、これも内容覚えてないなあ。「時間」テーマのスパイものっぽい話だったようだが、反ユートピアものということで好みのタイプの作品ではなかったか。フランスの作品ってミステリの方でも自分に合わないものが多い気がするが、なにか傾向があるのかなあ。
(2021.11.14記)
マキリップ,パトリシア・A. McKillip, Patricia Ann (1948~ *米)
『星を帯びし者』(1979)ハヤカワ文庫FT 脇明子訳 : '81/A
   The Riddle-Master of Hed(1976)
 異世界ファンタジー<イルスの竪琴>三部作の第1作。トールキン以後のモダン・ファンタジーの中で読んだものとしてはいちばん好きで、とてもよくできた作品だと思っているもの。主人公が幽霊との謎かけ試合に勝って…というところから始まるが、主人公の額に刻まれている三つの星の印は何か、海からやってくる変身術者とは何者か、「偉大なる者」はどこに行ったのかなど、謎が謎を呼ぶ展開で、続巻の刊行を待ちわびながら読んでいた。イメージが美しく、登場人物や土地や道具立ても魅力的で大変好みの作品だった(あ、でも好きだったのは覚えているのに細かいところは…)。表紙・口絵・挿絵が山岸涼子で、漫画家の装画としては物語を邪魔しない良い絵だと思ったけど、竪琴はちょっと大きすぎたかな。早川書房はこの作品の版権手放してしまったみたいだけど、何を考えておるのだ。
 ハヤカワ文庫FTの第1番の作品である『妖女サイベルの呼び声』は、「名前の掟」が重要な物語で猪のサイリンとか隼のターとか出てくる「幻獣」たちも格好良かったな。世界幻想文学大賞受賞。岡野玲子によって『コーリング』というタイトルで漫画化されている。初期から表紙は変わったけど、しかし今のハヤカワ文庫FTにはマキリップはこれしか残っていないんだよな。さすがに第1番だから残しているのか。ちなみに新表紙はコミカライズの岡野玲子。
 他に、軽いSFファンタジーといった感じの『ムーンフラッシュ』『ムーンドリーム』の連作、中世風の架空の都市の出来事を描いて再び世界幻想文学大賞を受賞した『影のオンブリア』、ライトノベル叢書から出た「取り替え子」の物語『チェンジリング・シー』などの作品がある。『妖女サイベルの呼び声』と<イルスの竪琴>がすごく気に入っていたので、以後の作品には期待値が高すぎるのか今一つな印象のものが多いのが残念。気がつくと<イルスの竪琴>の再刊を含め創元推理文庫でたくさん出ているじゃん!と思ったらそれらもほとんど品切になっていて、世は無常だなあ。

<イルスの竪琴> ハヤカワ文庫FT 脇明子訳
 『海と炎の娘』(1980) Heir of Sea and Fire(1977) : '81/A
 『風の竪琴弾き』(1981) Harpist in the Wind(1979) : '81/A
<その他の作品>
 『妖女サイベルの呼び声』(1979)ハヤカワ文庫FT 佐藤高子訳 : '81/A
   The Forgotten Beasts of Eld(1974)
 『ムーンフラッシュ』(1987)ハヤカワ文庫FT 佐藤高子訳 : '87/B
   Moon-Flash(1984)
 『ムーンドリーム』(1988)ハヤカワ文庫FT 佐藤高子訳 : '88/B
   The Moon and the Face(1985)
 『影のオンブリア』(2005)ハヤカワ文庫FT 井辻朱美訳 : '10/C
   Ombria in Shadow(2002)
 『チェンジリング・シー』(2008)小学館ルルル文庫 柘植めぐみ訳 : '12/C
   The Changeling Sea(1988)

(2021.11.15記)
グリパリ,ピエール Gripari, Pierre (1925~1990*仏)
『ピポ王子』(1980)ハヤカワ文庫FT 榊原晃三訳 : '84/D
   Histoire du Prince Pipo(1976)
 ハヤカワ文庫FT初期の、児童文学やおとぎ話的なものなども入れていた頃のもの。あまり内容覚えてなかったが、多少変格な王子様の遍歴冒険譚と言えるかな? それほど長い話ではないが、この邦訳には内田善美がカバー・口絵・挿絵を描いているというある意味豪華なもの。
 グリパリは小説の執筆のほか民話やファンタジーの研究も行っていたというが、他の作品に、『ピポ王子』の初めにも出てくる「ピエールさん」という作家が子どもたちとお話を作って遊ぶという体裁の物語集で、出世作となった『木曜日はあそびの日』などがある。
(2021.11.16記)
ディキンスン(ディッキンソン),ピーター Dickinson, Peter (1927~2015*英)
『キングとジョーカー』(1981)サンリオSF文庫 斎藤数衛訳 : '86/C
   King and Joker(1976)
 エリザベス2世の祖父が王位につかなかった架空のイギリス王室が舞台という、IFの世界もののSFミステリ。国王の娘の王女様を主人公に、謎の人物「ジョーカー」によるちょっとした悪ふざけから「出生の秘密」の暴露や殺人に至る事件が描かれる。あまりちゃんと覚えてないけど、どろどろした暗い面を含めて架空とはいえ王室を結構リアルに書いているとか。扶桑社ミステリーから再刊された。  1968年の推理小説<ピブル警視シリーズ>第1作『ガラス箱の蟻』でデビューし、この作品と翌年の第2作『英雄の誇り』で2年連続英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞を受賞した。このシリーズの4作目『眠りと死は兄弟』はSF仕立てになっているという。
 児童文学の分野では、『過去にもどされた国』に始まる、機械文明が発達していないIFの世界ものという児童文学では珍しいSFである<大変動>三部作(2作目は未訳)があるほか、古代エジプトをモデルにしたイメージの美しいファンタジー『青い鷹』でガーディアン賞を、『聖書伝説物語』とその前年の作品で2年連続カーネギー賞を、チンパンジーに意識を移植された少女を描くという衝撃的なSF『エヴァが目ざめるとき』でフェニックス賞を受賞している。
 北ローデシア(現ザンビア)生まれで幼少時をアフリカで過ごす。凝った文体と複雑な構成で、奇妙な味を持った作品が多い。他に、人種差別問題を扱ったSF『緑色遺伝子』などの作品がある。

<その他の作品>
 『過去にもどされた国』(1972)大日本図書 はやしたかし訳 : '86/B
   The Weathermonger(1968)
 『悪魔の子どもたち』(1974)大日本図書 美山二郎訳 : '86/B
   The Devil's Child(1970)
 『青い鷹』(1982)偕成社 小野章訳 : '85/B
   The Blue Hawk(1976)

→作家やその他の作品については「私的 児童文学作家事典〔海外編〕」「ディキンソン(ディッキンソン),ピーター」も参照のこと。

(2021.12.16記)
ホーガン,ジェイムズ・P. Hogan, James Patrick (1941~2010*英)
『星を継ぐもの』(1980)創元推理文庫 池央耿訳 : '85/B
   Inherit the Stars(1977)
 月面で5万年前の宇宙服を着た遺体が発見されるという謎から始まる<巨人たちの星>シリーズの第1作となったデビュー作。木星の衛星ガニメデやかつて小惑星帯にあった惑星での出来事などがシリーズが進む中で明かされていくので、この第1作ではまだいろいろ不明ながら、かっちりした作りのハードSFとしてよくできている作品。第2作以降はファーストコンタクトものと言えるかな。日本ではホーガンの人気は高く、この第1作とシリーズ第4作『内なる宇宙』はともに星雲賞を受賞しており、第3作までの内容で星野之宣が漫画化している。シリーズには未邦訳の5作目がある。
 フランケンシュタイン・コンプレックスという問題を描く『未来の二つの顔』では、コンピュータというか人工知能と人間のどちらが支配権を得るかを確認するため、スペースコロニーを使って壮大な実験が行われる話。現実にはなかなかこんなことはできないと思うけど。この作品も星野之宣によって漫画化されている。しかしこの話の時代は2028年かあ。もうすぐじゃんね。まだスペースコロニーとかここまで進んでないぞ。
 他に、タイタンでの機械生命体を描く<造物主(ライフメーカー)>シリーズ、異質な植民社会を描いてプロメテウス賞を受賞した『断絶への航海』などの作品がある。

<巨人たちの星> 創元推理文庫(4のみ創元SF文庫) 池央耿訳
 『ガニメデの優しい巨人』(1981) The Gentle Giants of Ganymede(1978)
 『巨人たちの星』(1983) Giant's Star(1981)
 『内なる宇宙』上・下(1997) Entoverse(1991)
<その他の作品>
 『未来の二つの顔』(1983)創元推理文庫 山高昭訳 : '87/B
   The Two Faces of Tomorrow(1979)

(2021.11.17記)
ベンフォード,グレゴリイ Benford, Gregory (1941~ *米)
エクランド,ゴードン Eklund, Gordon (1945~ *米)
『もし星が神ならば』(1988)ハヤカワ文庫SF 宮脇孝雄訳 : '92/C
   If the Stars Are Gods(1977)
 ファーストコンタクトものだが、一人の男の一代記でもある結構骨太な物語であるようだ。ネビュラ賞を受賞している評価の高い作品。あらすじやレビュー見ても内容よく思い出せないが、自分としてはピンとこなかったようだ。タイトルが格好いいことから読んだのだったかな? これも物語の時代、メインと言える第二部まではもう過ぎてしまったなあ。
 ベンフォードは<銀河の中心>シリーズなどのハードSF作家で、いろいろな作家との合作も多い。エクランドはスタートレックもののオリジナル小説1冊以外は、日本では翻訳されていないようだ。
(2021.11.18記)
アンソニイ,ピアズ Anthony, Piers (1934~ *英)
『カメレオンの呪文』(1981)ハヤカワ文庫FT 山田順子訳 : '84/A
   A Spell for Chameleon(1977)
 <魔法の国ザンス>を舞台にしたファンタジーのシリーズ第1作。住人すべてが魔法の力を持っているという「ザンス」の地で、主人公のビンクは魔法の力が発現しないため追放されそうになるというのが発端。顔の美醜と知性が反比例して変化するというカメレオンが印象的。英国幻想文学賞を受賞した。日本版はこの巻の表紙のみ、原書のマイクル・ウィーランの絵を使っている。
 シリーズは、第2作『魔王の聖域』でザンスにはなぜ魔法があるのかと言う世界の根本の謎が解き明かされ、その後は主人公を変えながらこの世界での様々な出来事を描いている。出てくる動植物名などに英語の駄洒落や語呂合わせなどの言葉遊びが使われていて、翻訳は苦労したろうなあ。人間のほか、ドラゴン・セントール・ゾンビー・幽霊・人喰い鬼・夢馬、ニッケルサソリ・ぴくぴく虫・サクランボ爆弾・触手木などといった、魅力的で多彩なキャラクターと事物が織りなす波乱万丈な冒険ファンタジーで、どの作品も楽しめる。異世界ファンタジーだが、ザンスの地はモデルとなっているフロリダ半島の形をしていて(第4巻から地図も)、魔法の使えない者たちの土地マンダニアとは地続きになっている。シリーズは年1冊程度コンスタントに40作以上書き継がれているが、翻訳は第21作で止まっている模様。
 他に、核戦争後の荒廃した世界を描いてのちシリーズ化した『繩の戦士』、ディックの短編「追憶売ります」を映画化した『トータル・リコール』のノベライズなどのSFも執筆している。イギリス生まれだが、アメリカに移住している。

<魔法の国ザンス> ハヤカワ文庫FT 山田順子訳
 『魔王の聖域』(1982) The Source of Magic(1979) : '84/A
 『ルーグナ城の秘密』(1984) Castle Roogna(1979) : '84/B
 『魔法の通廊』(1985) Centaur Aisle(1981) : '85/B
 『人喰い鬼の探索』(1986) Ogre, Ogre(1982) : '86/B
 『夢馬の使命』(1987) Night Mare(1982) : '88/B
 『王女とドラゴン』(1989) Dragon on a Pedestal(1983) : '90/B
 『幽霊の勇士』(1992) Crewel Lye(1984) : '94/B
 『ゴーレムの挑戦』(1994) Golem in the Gears(1986) : '94/B
<その他の作品>
 『繩の戦士』(1970)ハヤカワSFシリーズ 峯岸久訳 : '84/C
   Sos the Rope(1968)

(2021.11.19記)
ハンコック,ニール Hancock, Niel (1941~2011*米)
『二人の魔法使い』(1980)ハヤカワ文庫FT 中村妙子訳 : '84/D
   Greyfax Grimwald(1977)
 「アトラントン地球」と呼ばれる異世界のファンタジー<光の輪>四部作の第1作。ファンタジー世界では珍しく銃が出てきたりするのが印象に残っているが、光と闇の対立・戦いというファンタジーでは定番のストーリー。異世界ハイ・ファンタジーと児童文学的な動物ファンタジーが融合したという感じで、人間の魔法使いも出てくるが、主人公は小人や動物たち。物語のスケールはそれなりに大きいと思うが、ちょっと感情移入しにくかったのか、自分としてはしっくりこなかった感じがする。翻訳のある『竜の冬』と未訳の他二つの四部作は、同じ世界の前の時代の物語にあたるとのこと。

<光の輪> ハヤカワ文庫FT : '84/D
 『光の女王ロリーニ』(1980) 中村妙子訳 Faragon Fairingay(1977)
 『終りなき道標』(1980) 岩原明子訳 Calix Stay(1977)
 『聖域の死闘』(1980) 岩原明子訳 Squaring the Circle(1977)

(2021.11.20記)
バック,リチャード Bach, Richard (1936~ *米)
『イリュージョン』(1981)集英社文庫 村上龍訳 : '86/D
   Illusions(1977)
 客を乗せて遊覧飛行している飛行機乗りと「救世主」を名乗る同業者との、不思議なことが起こる旅を描いた物語。SFをいろいろ読んでいた頃に読んだのだが、誰かに薦められて読んだんだったかなあ。寓話的な、スピリチュアルなイメージのある作品のようで、自分としてはあまり好みのタイプではなかったと思う。作家・村上龍の翻訳だったが、2006年に別の訳者による新訳も出ている。
 バックは飛行機の愛好家で、自家用機を飛ばしたり飛行機に関する本を著したりもしているが、1970年に発表してベストセラーになった『かもめのジョナサン』の作者として知られている。2014年最終章が追加された「完成版」が刊行された。訳者はこれも作家の五木寛之。
(2021.12.6記)
マッキンタイア,ヴォンダ・N. McIntyre, Vonda Neel (1948~2019*米)
『夢の蛇』(1983)サンリオSF文庫 友枝康子訳 : '87/B
   Dreamsnake(1978)
 核戦争後の文明が廃れた世界での、蛇の毒を使って病気治療を行う治療師の女性の物語。誤解から殺されてしまった、治療に使う貴重な蛇を探す話だが、結局新しい「夢の蛇」は手に入ったんだったっけ。ロードノベルにロマンスやサスペンスの要素を加えた、美しい文体と世界の巧みな描き方でヒューゴー賞・ネビュラ賞の両賞を受賞した作品。SFファンタジー的な感じで結構気に入ったもの。ハヤカワ文庫で再刊されたけどまた品切になってしまったようだ。
 SFやファンタジーの作家を育成するクラリオン・ワークショップの出身で、レイバーデイに行われる世界SF大会で発表されるヒューゴー賞の1970年代の常連組「LDG(レイバー・デイ・グループ)」の一人と目されている。他の作品に、ネビュラ賞を受賞した歴史改変SF『太陽の王と月の妖獣』、フランケンシュタインの続編のリメイク映画『ブライド』や、スタートレック、スター・ウォーズもののノベライズなどがある。SF評論家・翻訳家の大野万紀の名前はマッキンタイアのアナグラムだとか。
(2021.12.7記)
ヴァーリイ,ジョン Varley, John (1947~ *米)
『残像』(1980)ハヤカワ文庫SF 冬川亘,大野万紀訳 : '84/B
   The Persistence of Vision(1978)
 ヒューゴー賞・ネビュラ賞を受賞した表題作を含む、作者の第1短編集。他の収録作も賞を受賞していたり、ノミネートされたりしているとのこと。表題作「残像」は、言葉によらないコミュニケーションを行なっている視聴覚障害者のコミューンを描くという意欲作。収録作は他に、水星での青春小説「逆行の夏」、仮想現実を扱ったと言える「汝、コンピューターの夢」など。人類が異星人により地球から追われた<八世界>という未来史に属する作品も多い。
 「LDG(レイバー・デイ・グループ)」の一人とされ、1970年代にはヒューゴー賞・ネビュラ賞の常連となった。他に、『へびつかい座ホットライン』などの<八世界>シリーズに属する作品、映画企画から生まれた『ミレニアム』などの作品がある。水球体プールのイメージがおもしろい、身体障害の克服と代償を描いた「ブルー・シャンペン」などいくつかの短編はテレビドラマ化されている。日本ではオリジナル編集を含め短編集が何度か出され、<八世界>シリーズの全短編は2冊に再編されて刊行された。
(2021.12.8記)
リー,タニス Lee, Tanith (1947~2015*英)
『闇の公子』(1982)ハヤカワ文庫FT 浅羽莢子訳 : '84/A
   Night's Master(1978)
 「世界は平らかで、混沌の海に浮かんでいた」頃の出来事という設定の、妖魔がいる古代・中世風世界でのファンタジー。その世界の第1作となったこの話は、三人の「闇の君」の一人、妖魔の王たるアズュラーンを中心としたオムニバス連作。人間は傲慢な妖魔の王に振り回されるが、最後の展開はむしろ感動的。妖艶で美しい描写が堪能できる。日本版のシリーズの表紙絵は4作目までは萩尾望都だったが、再刊で1・2作は装飾的な加藤俊章に変わった。どちらがいいかは好みの別れるところか。3作目以降は再刊しないのかなあ。第2作の『死の王』だけ訳者が違うせいかタイトルが統一的でないのはちょっと気になる。
 タニス・リーで最初に読んだ『闇の城』は、天野喜孝の表紙絵も含めイメージが美しくて、短めながらかなり好きな話だったが、『白馬の王子』と同じ世界観のものとは知らなかった。同じく天野喜孝が表紙の『死霊の都』はホラーっぽいタイトルに反してSF的な感じもするちょっとひねったファンタジー。幻想耽美な雰囲気の漂う<パラディスの秘録>は2作が角川書店でビアズリーの「ヨハネとサロメ」をあしらった表紙で出た後(のち角川ホラー文庫に収録)、シリーズ全4作が創元推理文庫から刊行された。他に、ロボットと人間の恋物語であるSF『銀色の恋人』(のち続編も)、幻想のインドをテーマとした『タマスターラー』、グリム童話・「白雪姫」・「ロミオとジュリエット」を再話した作品などもある。児童文学として出たデビュー作『ドラゴン探索号の冒険』は日本ではめるへんめーかーの表紙絵で現代教養文庫のアドベンチャー&ファンタジーの叢書で出た。
 タニス・リーは軽い読み物的な児童文学から、エロティックな大人向けのものまで、ファンタジー・SF・ホラーを中心に執筆。『死の王』で英国幻想文学大賞を、短編で世界幻想文学大賞を2年連続受賞し、2013年には世界幻想文学大賞の生涯功労賞を受賞した。この作者も近年はハヤカワ文庫FTでは刊行がなくなり、創元推理文庫他からの出版が多くなっているが(そしてその多くが品切…)、未訳の作品も多い。

<平たい地球> ハヤカワ文庫FT
 『死の王』(1986) 室住信子訳 Death's Master(1979) : '86/B
 『惑乱の公子』(1986) 浅羽莢子訳 Delusion's Master(1981) : '88/B
 『熱夢の女王』上・下(1989) 浅羽莢子訳 Delirium's Mistress(1986) : '89/B
 『妖魔の戯れ』(1990) 浅羽莢子訳 Night's Sorceries(1987) : '91/B
<パラディスの秘録> 角川書店 浅羽莢子訳
 『幻獣の書』(1992) The Book of the Beasts(1988) : '94/B
 『堕ちたる者の書』(1992) The Book of the Damned(1988) : '94/B
<その他の作品>
 『月と太陽の魔道師』(1982)ハヤカワ文庫FT 汀奈津子訳 : '84/B
   East of Midnight(1977)
 『冬物語』(1982)ハヤカワ文庫FT 室住信子,森下弓子訳 : '84/B
   Companion on the Road(1977)
 『白馬の王子』(1983)ハヤカワ文庫FT 井辻朱美訳 : '98/C
   The Prince on a White Horse(1982)
 『死霊の都』(1983)ハヤカワ文庫FT 森下弓子訳 : '84/B
   Shon the Taken(1979)
 『幻魔の虜囚』(1983)ハヤカワ文庫FT 浅羽莢子訳 : '84/B
   Volkhavaar(1977)
 『闇の城』(1983)ハヤカワ文庫FT こだまともこ訳 : '83/A
   The Castle of Dark(1978)
 『影に歌えば』(1986)ハヤカワ文庫FT 井辻朱美訳 : '86/C
   Sung in Shadow(1983)
 『タマスターラー』(1987)ハヤカワ文庫FT 坂井昭伸訳 : '87/B
   Tamastara or the Indian Nights(1984)
 『ゴルゴン』(1996)ハヤカワ文庫FT 木村由利子,佐田千織訳 : '96/B
   The Gorgon and Other Beastly Tales(1985)
 『黄金の魔獣』(1996)ハヤカワ文庫FT 木村由利子訳 : '98/B
   Heart-Beast(1992)
 『血のごとく赤く』(1997)ハヤカワ文庫FT 木村由利子, 室住信子訳 : '97/B
   Red as Blood or Tales from the Sister Grimmer(1983)
 『銀色の恋人』(1987)ハヤカワ文庫SF 井辻朱美訳 : '87/B
   The Silver Metal Lover(1981)
 『ドラゴン探索号の冒険』(1990)現代教養文庫 井辻朱美訳 : '99/C
   The Dragon Hoard(1971)
 『バイティング・ザ・サン』(2004)産業編集センター 環早苗訳 : '10/C
   Biting the Sun(1976,1977)
 『鏡の森』(2004)産業編集センター 環早苗訳 : '10/C
   White as Snow(2000)

(2021.12.9記)
フィニ,レオノール Fini, Leonor (1908~1996*アルゼンチン)
『夢先案内猫』(1980)工作舎 北嶋廣敏訳 : '87/D
   L'Oneiropompe(1978)
 不思議な猫に異界や白昼夢へ導かれるという幻想譚。出版社のサイトにある本の表紙は「プラネタリー・クラシクス」叢書のもののようだけど、Amazonにあるのは本人の絵を使った新版なのかな?
 フィニはシュールレアリストらと交流し、そのグループには属さなかったものの、幻想的な絵を描いた画家として知られる。絵画のほか、映画の衣装デザインや舞台美術も手がけ、他人の詩の題材や写真の被写体になったりもしていた。猫を偏愛し、フランスのコルシカ島の廃墟となっていた僧院を買い取り、数十匹の猫に囲まれて暮らしていたこともあるとのこと。
(2021.12.10記)
ディッシュ,トーマス・M. Disch, Thomas Michael (1940~2008*米)
『歌の翼に』(1980)サンリオSF文庫 友枝康子訳 : '89/C
   On Wings of Song(1978)
 魂を飛翔させる歌、という技能が出てくる音楽SF。ある意味、自伝的なものでもあるとか。「飛翔」というイメージが魅力的で買って損はなかったと記憶しているが、その割に自分の評価が高くないな。サンリオSF文庫休刊後長らく手に入らなかったが、国書刊行会の「未来の文学」叢書から再刊された。
 パトリック・マクグーハンが主演したテレビドラマ「プリズナーNo.6」のノベライズ『プリズナー』は、ドラマとは違う展開も含むSF味のあるスパイもの。ドラマはカルト的な人気があるのとのこと。
 別荘に置き捨てられたトースター・掃除機などの家電機器がご主人様を探しに旅に出る『いさましいちびのトースター』とその続編『いさましいちびのトースター火星へ行く』は、重苦しい作品の多いディッシュの中でも異色な?ほのぼのSF。英国SF協会賞や日本の星雲賞を受賞し、アニメ映画も作られた。日本版の表紙・挿絵は単行本版では吾妻ひでお、文庫版では長崎訓子。
 ニューウェーヴの中心となった作家の一人とみなされ、作品は他に『人類皆殺し』『キャンプ・コンセントレーション』などがある。1998年に評論でヒューゴー賞関連書籍部門を受賞した。

<その他の作品>
 『プリズナー』(1977)ハヤカワ文庫SF 永井淳訳 : '83/C
   The Prisoner(1969)
 『いさましいちびのトースター』(1987)早川書房 浅倉久志訳 : '89/B
   The Brave Little Toaster(1980)
 『いさましいちびのトースター火星へ行く』(1989)早川書房 浅倉久志訳 : '90/B
   The Brave Little Toaster Goes to Mars(1988)

(2021.12.11記)
サドラー,バリー Sadler, Barry (1940~1989*米)
『永遠の傭兵』(1988)創元推理文庫 安藤由紀子訳 : '94/C
   Casca #1 : The Eternal Mercenary(1979)
 イエスを槍で突いた古代ローマの兵士がその罰で不死身にされ、現代まで戦士として戦い続けている…という設定のシリーズの第1作。50作以上続いているこのシリーズの初期の数作品を手がけた。アメリカでペーパーバックで刊行されるヒーローものを紹介するという企画で5冊翻訳出版されたものの1冊。創元推理文庫のハードボイルド系の分類で出ているが、これはSFだよね?ということでこちらで。それともヒロイック・ファンタジーとして「帆船マーク」の方で出した方がふさわしかったかな。
 ベトナム戦争に従軍したサドラーは、小説を書く前は軍事的なテーマの曲の作曲・歌手としての活動をしており、「グリーン・ベレーのバラード」などのヒット曲もある(本の解説者の推測は当たってた)。
(2021.12.12記)
ヴィンジ,ジョーン・D. Vinge, Joan Dennison (1948~ *米)
『琥珀のひとみ』(1983)創元推理文庫 浅羽莢子,岡部宏之訳 : '87/B
   Eyes of Amber(1979)
 ヒューゴー賞を受賞した表題作、デビュー作である「錫の兵隊」を含む短編集。表題作「琥珀のひとみ」は、地球人にとってはSFだが現地の者の立場ではファンタジーに見えるというタイプの話。「錫の兵隊」は宇宙飛行士の女性とサイボーグの男性の恋物語。表紙絵は表題作のネタバレなうえにちょっとどぎついかなと思っていたら、おしゃれな感じにリニューアルされていた。
 アンデルセンの作品をベースにした、とある惑星の女王のクローンの少女を主人公とした大作SF『雪の女王』でヒューゴー賞を受賞した。他に、中世ヨーロッパを舞台にして呪いを受けた男女の物語を描いた映画『レディホーク』のノベライズのほか、ファンタジーやSFの映画のノベライズやストーリーブックの執筆も手がける。SFファンタジーな感じのソフトな雰囲気の作品が多いのが自分としては好きだったかな。同じSF作家のヴァーナー・ヴィンジは最初の夫。

<その他の作品>
 『レディホーク』(1985)角川文庫 野田昌宏訳 : '88/B
   Ladyhawke(1985)

(2021.12.13記)
リーミイ,トム Reamy, Tom (1935~1977*米)
『サンディエゴ・ライトフット・スー』(1985)サンリオSF文庫 井辻朱美訳 : '88/B
   San Diego Lightfoot Sue and other stories(1979)
 格好いいタイトルから読んでみようと思ったダーク・ファンタジーの短編集。玉石混交という感じで、全体として「大好き」とは言いかねるものの、ちょっと気になる作品集だったか。収録作は魔法が絡む恋愛ものやホラーっぽいものを含み、共通する人物や背景があるものもある。表題作はネビュラ賞を受賞。心臓発作による没後の出版で、ともにSF作家であるエリスンの長文の序文とウォルドロップの追悼エッセイつき。この本は読みたいと思ったときすでに書店にはなくなっていて、ちょっとイレギュラーな方法で手に入れたもの。その節はありがとうございました…。
 1920年代のアメリカ中西部での移動カーニバルが舞台の『沈黙の声』は中山星香のコミカライズで読んだが、原作は書店でぱらぱら見ただけで、ちゃんと読んでいなかったかも。中山星香の漫画としてはちょっとエロティックな雰囲気があったり言葉遣いなどに少し違和感があったりしたが、ストーリーやせりふ回しなどが原作に倣っていたためかな。のち、ちくま文庫から再刊された。

<その他の作品>
 『沈黙の声』(1981)サンリオSF文庫 井辻朱美訳
   Blind Voices(1978)

(2021.12.15記)

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